パンチングレザー
刺し子ライダース ver.3 type.Bandana
ウェア&グッズ部門
フューチャーデザイン賞
石橋 善彦(東京都)
有限会社 オベリスク
自然と技の一足
フットウェア部門
ベストプロダクト賞
菊池 敏哉(東京都)
個人
この靴は、革の持つ魅力と耐久性を最大限に引き出すために、細部にこだわり抜きました。水に強く、長く履けるように、耐水性に優れた鮫革を使用しています。トップラインには、柔らかい革を編み込むことで、耐久性を高めました。この編み込みは機能美としても、見た目に楽しさを添えています。(履いて痛くないのは確認済みです)
さらに、本底のコバやヒールには、手作業による槌目模様を施し、鮫革の持つ自然の模様と調和させました。自然の力強さと人の手による繊細な美しさが融合した、この一足は、長く愛用していただけるよう製造しました。
日本の皮革素材を活用した新しい価値の
創造、テーマ性、時代性について
この靴は、日本の伝統的な皮革素材である鮫革を活用し、新たな価値を創造しています。鮫革の耐水性と独特な模様を活かし、職人の手技による槌目模様を融合させたデザインは、自然と技の調和をテーマとしています。また、柔らかい革を編み込み、高い耐久性と見た目の美しさを実現しています。現代の持続可能な素材への関心に応え、長く愛用できる一足として、時代性を持った一足です。
<審査員長 総評>
鮫の漁獲量は戦後減り続けており、鮫皮はエキゾチックレザーのように高価になっているとのことだが、食用需要の副産物として鮫革を利用することは良いことだ。
水に強く、傷つきにくい特性は、日本のような湿気大国にはベストな素材であり、“永く愛せる素材”として、使い捨てを嫌う若者世代からも支持を集めそうだ。
またフォーマルでありながらワイルドな見た目は、既視感がなく新鮮である。そこも若者世代に受けそうだ。日本の革靴として世界にも知らしめたい逸品である。
折りたためるレザーバッグ
バッグ部門
ベストプロダクト賞
佐藤 周平(東京都)
エース株式会社
生活する上で物は増えていきます。
少しでもスペースをとる為に
革の硬いバッグでも隙間スペースに収納が出来ればと思い
ダンボール箱のパッケージングから着想を得てカタチにしました。
<審査員長 総評>
ほどよく物を減らし、小綺麗な部屋でセンスよく暮らすことが、これからの理想であることは間違いない。4割近くが一人暮らし世帯となった今、モノの価値基準は大きく変わり、嵩張るレザーバッグのデザインにもその対応が求められている。そうした中、ダンボール箱から発想された折りたたむことができるこのレザーバッグは、現代人の琴線に触れる魅力がある。パソコン収納に最適なサイズで、特に近所のカフェなどちょっとした移動が多い在宅勤務時の「モチハコブカタチ」として、ベストな造形に仕上がっている。
革ときもの地とのコラボコート
ウェア&グッズ部門
ベストプロダクト賞
野村 孝之(山形県)
革きものアルティジャーノ
テーマは孔雀です。全ての女性が美しく、そして羽根を広げて生き生きとした姿を想像して制作致しました。裾周りは着物幅に合わせて、出来るだけ広がるようにパターンを作りました。なるべく手仕事を多く入れ、革で無ければ出来ない断ち切り仕立て、革テープなどを入れ立体感を出しました。ステッチは刺子用糸を使用し、ハンドステッチをしました。パンチ部分は孔雀の模様を意識して、ハンドパンチングを致しました。思い出のある着物地を使う事によって、お一人づつの思いを作り上げるお手伝いも出来ます。
日本の皮革素材を活用した新しい価値の
創造、テーマ性、時代性について
メイン素材は、北海道産のカーフで、光沢の無い素上げを0.6ミリに革漉きし、柔らかくそして重量も抑えました。着物地はアンティークの大島紬を使用しました。2年程前からSDGSを意識して、思いのこもった大切なお着物や反物をリユースして、革とのコラボ商品を制作しております。裏地は地元山形の鶴岡シルク(株)のシルクを使用し、とことん日本製にこだわり、日本文化を伝え続ける事を深くイメージして作りました。
<審査員長 総評>
着物のリメイクによって出来上がるコートやワンピースを見るにつけ、やや勿体無い感じがしていたのは、それ自体が悪いのではなく、着物が背負う様々な歴史や物語に対して、それらを消したカジュアルなものに仕立てられるからだと分かった。様式がカジュアルであっても、動物の記憶を持った革製品とのコラボならば、着物が本来持つ物語も消されることなく生きる。そういった意味でこの革と着物地の組み合わせは、リメイクのあり方に一石を投じるものであり、大切な着物を生まれ変わらせる提案としてふさわしいのではないだろうか。
宅配ボックス
フリー部門
ベストプロダクト賞
能澤 大輔(青森県)
青森県立青森第一高等養護学校
預ける人も受け取る人も楽しめる宅配ボックスがあれば良いなぁと思ったのがきっかけです。
ただの箱ではなく、開けてみたいけど、開けたらヤバそうだなと思わせる重厚さや不気味さを出すために、普段は選ばないような型押し革を使いました。
実際に人間に襲いかかるモンスターなら、少し太ってて柔らかい方が生き物らしくなると思い、不規則に綿を詰めています。
舌の部分は蓋に連動して動くようにしたり、大きな荷物の時には外したりできるようにするなど、宅配ボックスとしての機能にもこだわりました。
世の中に革を使った個性的な宅配ボックスがたくさんあったら、もっと楽しくなるのになと思います。
日本の皮革素材を活用した新しい価値の
創造、テーマ性、時代性について
運ぶ人、受け取る人、双方にとって必要不可欠になった宅配ボックス。
玄関に置かれた宅配ボックスは大切な荷物を預かると同時に、家の顔になりつつあります。
そんな宅配ボックスに個性を持たせるために、ストーリーを吹き込みました。
革の持つ表現力は、驚きや触りたくなる衝動を与えるとともに、使う人の想像力を刺激するため、宅配ボックスが無機質で退屈な箱では無くなりました。
<審査員長 総評>
「無機質な宅配ボックスはすっきりしてはいるが、家の顔としては何かが足りない」「運ぶ人、受け取る人が楽しめる宅配ボックスがあれば」という視点は本当にお見事で、時代の空気を捉えたデザインである。宅配業者への労いと思いやり、近隣住人との柔らかなつながりを、この宅配ボックスのデザインは見事に可視化している。開けた時に現れるベロが象徴的なモンスターは、不気味というより、また開けたくなる可愛さがあり、「いつもありがとう」という声が聞こえてくるかのような楽しく、優しいデザインである。
シルバーシューズ
フットウェア部門
フューチャーデザイン賞
藤原 崇晃(兵庫県)
藤原化工株式会社
日本は超高齢化社会を迎えます。自分の足で歩くこと(健康)はとても大切なことです。100歳まで歩けるためには靴はとても重要となります。ソールは接地面が広く、つま先と踵部分を上げることで、つまずきにくく足腰に負担がかからない素材を使用しています。軽量で、足に馴染みやすいように柔らかなレザーを使用。かがむことが難しい方でも、すぽっと履けるように踵の形状を考え、ゴムの面積も広くしています。甲の部分の取手を使って履かせやすい工夫もしています。使う側・介護する側にも優しいよう設計しました。
歳をとったら介護靴ではなく、おしゃれなレザーシューズを履いて外出してほしいと思いデザインしました。
日本の皮革素材を活用した新しい価値の
創造、テーマ性、時代性について
認知症による徘徊が過去最多となっています。左足のインソール下にはGPS(エアタグ)を入れることができ、施設・ご家族の方が安心して見守ることができます。柔らかなレザーを使うことで介護シューズにはない、フィット感とファッション性があります。
ソール・中敷き交換などのアフターケアも行っており、使い捨ての靴よりも3~4倍長く、馴染んだ靴を清潔に愛用することができます。
<審査員長 総評>
「シルバーシューズ」というタイトルには高齢者用という意味だけでなく、おしゃれな“銀の靴”というシンデレラのようなストーリーも重なっていて、そのコンセプトの厚みに驚きを覚えた。履く人、介護する人、それぞれの立場からデザインされたディテールは見事で、介護の経験がなければ生み出せないものだ。まだまだ暗いイメージから抜け出せない介護シューズだが、こうした提案によって未来は確実に明るくなる。
scratch pattern
バッグ部門
フューチャーデザイン賞
椎名 賢(兵庫県)
Ken Shiina Design Laboratory
『金継ぎ』。割れたり欠けたりした陶磁器を修理する日本の伝統技法。その『金継ぎ』から着想を得て、革についている天然の傷に金色の箔を施しました。天然の傷をその革が持つ個性や歴史と捉え、隠すのではなくあえて生かし、美しく魅力的な装飾としました。元々空いていた穴も装飾と捉えそのまま残しました。一箇所、強度的に問題がありそうな穴がありましたが、その穴は中国での陶磁器の伝統修復技法である『馬蝗袢』(ばこうはん)を参考にして穴を塞ぎました。裏から革を当て、真鍮で作った鎹(かすがい)でつなぎ留めました。
その革が持つ魅力を最大限に引き出した、アート作品の一面も併せ持つプロダクトです。
日本の皮革素材を活用した新しい価値の
創造、テーマ性、時代性について
昨年から取り組んでいるジビエレザーの活用。今回使用したのは天然のイノシシの革です。
家畜ではないジビエレザーは、傷の多い革、虫食い痕の多い革、原皮管理の難しさからくる痛みの多い革などほとんどが何かしらの欠陥がある革として仕上がるそうです。
この作品で挑戦した『金継ぎ』や『馬蝗袢』から着想を得た技法を使えば、どんな革でも無駄にせず、魅力のある革へと生まれ変わらせることが出来ると思っています。
<審査員長 総評>
革の傷問題をデザインの力で解決した革製品の歴史に残る秀作。金継ぎ技法から着想を得て、「天然の傷をその革が持つ個性や歴史として捉え、隠すのではなくあえて生かし、美しく魅力的」なバッグへ。作者の力量にはいつも感銘を覚えてきたが、力感が消えた今回の造形は、使う人への思いが全面に出ていて、市場も大いに活気付く名品である。
パンチングレザー刺し子ライダース ver.3 type.Bandana
ウェア&グッズ部門
フューチャーデザイン賞
石橋 善彦(東京都)
有限会社 オベリスク
昨年グランプリを頂いた作品の後継作になります。
今作では、刺し子は脇役として、オプション装備による服の新しいトランスフォームを主軸にしています。
専用オプションのネックウォーマーと手袋は、寒い冬に重宝しますが暖かい室内では邪魔になります。ネックウォーマーは革ジャンの後裾に付け燕尾になり、手袋はネックウォーマーに収納できます。
キャメル羊革・バンダナ柄の刺し子・背中のワッペンにより、アメカジな仕上がりになっています。
着用後に刺し子の糸が切れた際に修理しやすいように、袖と裏地に6本の修理用ファスナーを完備。服としては珍しい『修理を前提として考えられた服』であり、より長く愛用できます。
日本の皮革素材を活用した新しい価値の
創造、テーマ性、時代性について
パンチング加工の規則正しい穴に刺し子を施し、パンチングレザーに新しい可能性を見出だしました。
パンチングレザー刺し子は、時間さえあればどんな過酷な環境でも取り組める最高の暇潰しです。
日本人は、人に誇れる個性を持っている人が少ないそうですが、空き時間を有効活用することでこんなに素晴らしい物が作れます。人目を気にせず、ヤル気さえあれば、個性はいくらでも磨ける事をこの作品から伝えたいです。
<審査員長 総評>
昨年のグランプリ作品が進化した。今回の室内外でトランスフォームする新しいデザインは、気温変化に対応するスポーツウェアのようで、ライダースの魅力的な造形美に繋がっている。しかし私が特に評価したいのは、その作り方やプロセスの考え方である。レザー製品は画一的な製造法では魅力あるものにはならない。作者は暇な時間に刺し子を楽しみ、「空き時間を有効活用することでこんなに素晴らしいものが作れます」と断言する。道具的思考(目的思考)ではなく、遊戯的思考によるモノづくり、レザー製品を魅力ある世界に誘う新しい思考法である。
革あそびの茶箱
フリー部門
フューチャーデザイン賞
河本 静香(高知県)
sunao
様々な革の質感を楽しみながら、自宅や出先でお茶を味わうための茶箱です。革の天然素材ならではの優しい手触り、経年で味わいが深まり、数世代に渡り長持ちする点は、茶道具と相性が良いように思います。箱外装は希少な昔のメッシュ革と現代物の木目革。縁部分にはアドバン加工の革で、手摺れのような表現を試みました。外装だけでなく、御物袋、茶杓入れ、茶筅筒、茶巾筒などもすべて革でできています。六角形の革小箱は、香合もしくは菓子入れとしても使用可。箱の内装は肉厚のピッグスエードです。茶道と皮革工芸。ふたつの世界が共鳴しあうことで生まれる、自由で不易流行なスタイルは、人生をより豊かなものにします。
日本の皮革素材を活用した新しい価値の
創造、テーマ性、時代性について
この作品は動物由来の皮革製品を新素材に置き換えようとする昨今の風潮へのアンチテーゼです。革は殺生を連想するためか、仏教と深い関係を持つ茶道においてはマイナーな存在。しかし、革は食肉加工の副産物であり、革を使うことは食物としていただいた生命を無駄なく使う、いわば供養。茶道思想とも深奥では共鳴し合うのではと思っています。知己とお茶を楽しみながら、日本文化やSDGsについて語り合えればと製作しました。
<審査員長 総評>
一期一会という茶道の大切な考え方に、この持ち運ぶことができる茶箱はうってつけである。総合芸術である茶道において遊び心に満ちたこの茶箱がさまざまな場所で活躍するシーンが目に浮かぶ。例えば被災地。心が空になった人々にとって、どれだけ一服が助けになるか、それは想像を超えるものだろう。経年変化したこの茶箱も数年後、ぜひみてみたいと思う。
Fusion
学生部門
最優秀賞
吉田 謙太(埼玉県)
文化服装学院
服を作る時、人の体に合わせて作る。動物の皮を使って服を作る時も、人の体に合わせて作る。素材に問わず、基本的に服の根本的な構造は変わらない。
せっかく動物の皮を使うなら、その構造にその動物の形を反映したい。
革の歴史は古く、人と自然がもっと親密だったときから革を衣服として利用してきた。
動物と人体が融合するような服なら、違った形でかつてのように自然と一体化できるのではないか。
私は今回、牛革を利用して制作した。そのため少し広い目でみて、蹄をもつ動物の形を意識した。
彼らと人体では骨格が全く異なるので、人体の可動域や着心地に影響をださず、それでいて彼らの形を再現するような自然な融合を目指した。
日本の皮革素材を活用した新しい価値の
創造、テーマ性、時代性について
革の素材を活かすという既存の考え方は、しなやかさや、丈夫さなど、加工済みの革の素材特性に対して用いられてきたが、本作品は革が加工される前の動物だった過程の部分を、デザインの素材として活かされてもいいと思った。
多種多様な動物の皮を革に加工して利用している現在、元の動物がなんだったのかを服の個性としてアピールしたほうが、もっとこの多様性を楽しめるのではないだろうか。
<審査員長 総評>
せっかく動物の皮を使うなら、その構造にその動物の形を反映したい。
作者のこの考えに、審査員一同が感銘を受け、学生部門最優秀賞に選出された。鞣され上質に仕上がった皮革というマテリアルの以前に、動物であったことが可視化されたこのデザインは、造形もユニークでこれからの発展が楽しみ。社会的メッセージの強さは、この作品が際立っていた。
赤色小札黄銅鋲背嚢具足
アーティスティックデザイン賞
岡田 憲樹(愛知県)
株式会社 村瀬鞄行
量産時に出る端切れとランドセルのパーツを利用しつつ、本来とは異なるパーツとして使用してみました。作成するにあたり、甲冑にヒントを得て、ランドセルのパーツのみでそれらしく見える形にしました。
カブセ部分は引張部分を利用し、1枚ずつ繋ぎ合わせることで甲冑を彷彿とさせるデザインにしており、大マチ部分は異なる革を組み合わせて模様を作り、下部には”睨みを効かせた顔”を左右に作り、より甲冑らしく見えるようにしました。
色と形だけで、甲冑のように見せたランドセルです。お子様が背負えば武将気分、海外の方々へは日本文化を強くアピールしたランドセルです。
<審査員長 総評>
もったいないエコ精神(端切れ使用)と海外からのインバウンド需要、加えて、か弱くなった子供たちに「もっと勇ましくあれ」という親の願い。これらが集まり誕生したのがこの甲冑ランドセルだろう。時代は常に流れている。この作品は気を衒ったデザインでは決してなく、社会的な、自然な流れが造形に見受けられる。軽く機能的で静かなデザインが増えたランドセル市場を活気付かせる魅力がある。
knapsack
テーーマ賞
椎名 賢(兵庫県)
Ken Shiina Design Laboratory
今まで、いろいろなデザインのバックパックを制作してきました。その中で、最もシンプルで使いやすいデザインのバックパックとは?と考えた時、ナップサックにたどり着きました。
ナップサックは、肩ひもが巾着型の口を締めるひもを兼ねていることで設計が簡素化されます。パーツ数も少ないので工数も少なく済みます。とてもシンプルな構造です。
使い勝手の点では、ナップサックを両肩から下ろすことなく財布などが取り出せるよう、背面サイドにファスナーを設けました。
肩ひもは、肩が痛くなりにくいようにクッション性のある太い素材を選びました。
ナップサックでも革を使うことで高級感を持たせるデザインに仕上がりました。
日本の皮革素材を活用した新しい価値の
創造、テーマ性、時代性について
現在のファッションは、性別、年齢、国籍などの固定概念に捉われないボーダーレスファッションが広がりを見せています。また、90年代から広がっているファストファッションは今、いろいろな問題を抱えています。そのような中で、どんなファッションにも合わせられ、長く使えて愛着の持てるバッグをデザインする必要性を感じています。
革という素材を使いこなすことで今の社会が抱える多くの問題を解決できると信じています。
<審査員長 総評>
ある程度しっかり感もあり上質な皮革を使った巾着構造は、口部に皮革が集まることからその箇所がかさ張り、紐が締まり切らない感があるが、このバッグはその辺りもちょうど良く仕上がり、開け閉めもスムーズで気持ちいい。究極にシンプルな巾着型のレザーバックパックは、見た目にファストファッションとの相性もよく、時代の象徴的なアイテムになる可能性を秘めている。日本の袋物文化とのつながりを感じる柔軟なデザインはインバウンド市場にも大いに歓迎されるだろう。