アーティスティックデザイン賞
HAND-BAG
創作工房 井藤
驚くほどに精巧な、手の造形。よくできたオブジェかと思いきや、レザー編み込みのハンドルが取りつけられ、内部の空間には丁寧に裏地も仕込まれている、しっかりと実用性を備えた鞄。「これがホントのハンドバッグ」。応募シートにそんなひと言が添えられているところに、作者・井藤憲一郎さんの遊び心が垣間見える。
「製作のきっかけは、たまたまネットで見かけた、昔懐かしい雰囲気のアンドロイドの写真でした。陶器のような美しい白のアンドロイドで、関節部分には、別の色の接合パーツが見え隠れ。これを、レザーで表現することはできないか、そう思ったんです」
幼い頃から、ガンダムなどのロボットが大好きだったという井藤さん。「最近のAIで生成されるような未来的なヒューマノイドではなく、昔のSF映画に出てきそうなノスタルジックフューチャーなデザインに、グッときたんですよね」
実は井藤さん、2022年にもレザーアワードで、フリー部門フューチャーデザイン賞に輝いている。その時の作品は、縫製なし、接着材なしで仕上げた、はめ込み技法によるテディベア。今回の「HAND-BAG」にも同じ技法を用いている。
「パーツを用意して、それを立体的に組み上げていくという作業が好きなんですよね。23年、24年も出品しているんですが、ずっと同じ手法を採用しています」
この技法に出合ってから5年ほどになるというが、今回の作品を形にするまでには、これまでにない苦労があったようだ。
「指のすべての関節が、ちゃんと動くように仕上げたかったんです。テディベアの腕と足も可動式でしたが、あちらは一点を金具で留めただけの単純なつくり。今回は、本物の指のように滑らかに動かして、全体の連動感を実現するにはどうしたらいいか、本当に悩みました」
試作に試作を重ねた結果、ひらめいたのは、小さな丸いパーツを関節部分に仕込むというアイデア。
「以前、友人の会社のノベルティとして製作し、社名を入れてプレゼントしたことがあったアイテムなんです。これを中に入れて鋲で留めることで、思い通りの動きになりました」
頭を悩ませた指パーツは完成したものの、そこからさらに、どうやって手のひら部分につなげるか、親指の根元をいかにふくらませるか。山のようなサンプルパーツをつくっては組み立て、試行錯誤を繰り返したという。そうしてできあがった構造は、実にリアル。どんなふうに関節を曲げても本物の手のような動きで、ジャンケンだってできてしまう。
「ずっと自分の手を観察しながら製作していました。だから、作品は左手なんです。僕が右利きなので。でも本当は、右手もつくって、握手させるような形でショルダーバッグをつくりたかった。“ハンドなのに、ショルダー”って。これも、おやじギャグですね(笑)」
使用したのは、牛のタンニンなめしレザー。
「クロムなめしだと、軟らかすぎて張りがない。はめ込み技法で組み上げようとした時に、接合部が抜けてしまうんです。タンニンだとしっかり噛んでくれるし、このきしむような音もいいんですよね」
色は、最初にひと目惚れした画像に忠実に、白をチョイス。また、接合部のパーツは違う色にして、アンドロイド感を演出したと話す。
「本当はもう少し薄い緑色にしたかったんですけど、手配する時間がなかったんです。というのも、この作品の構想を思いついたのは、7月末。出品の締め切りが、たしか8月20日だったので、製作期間は半月くらいしかありませんでした」
2022年はフリー部門での受賞だったが、今回はハンドバッグ部門で勝負したかったという井藤さん。時間がないながらも、きちんと実用性のある鞄に仕立てられている点は見事。
「以前、東京で5年間、鞄屋さんに勤めていたことがあって。なので、バッグづくりにはちょっとこだわりがあるんです」
現在は自宅兼工房で、革製品の受注製作や、クリーニングなどを請け負っている。鞄の取り扱いがメインかと思いきや、職人人生のスタートは靴づくりだったという。
「父と祖父が、靴職人だったんです。自宅で作業をしていたので、常にハンマーの音が響いているような環境。そんな中で、落ちている革の端切れを使ってロボットをつくったり。やっていることは、今もほとんど変わらないですね(笑)」
そのうち、家業が靴づくりだけではなく、鞄を含めての小売販売を始めたため、修業も兼ねて前出の鞄店に勤務。その後地元・福井に戻り、祖父から本格的な靴づくりの手ほどきを受けたという。現在、先代から続く店舗は畳んだが、「創作工房 井藤」として、自身のビジネスを展開している。
「これからやってみたいのは、オンラインストアですね。はめ込みを使った商品を開発して、それを販売してみたい。レザーアワードにも、引き続き挑戦するつもりです。やっぱり、ものづくりが好きなんですよね」
今回の受賞作品が完成してからは、毎晩かたわらに置いて晩酌していたという井藤さん。彼が生み出す愛にあふれるアイテムたちは、これからさらに多くの人々を魅了していくに違いない。
文=中村真紀
写真=江藤海彦