ウェア&グッズ部門
ベストプロダクト賞
TENMIZO GAMAGUCHI #3
GNUOYP(ニュピ)
そのレトロな佇まいで、世代を超えて愛されている「がまぐち」。がまぐちといえば、開閉の際に指先でつまむ突起(らっきょう玉)が特徴だが、ウェア&グッズ部門 ベストプロダクト賞を受賞した「TENMIZO GAMAGUCHI #3」はさにあらず。突起がなく、全体的にスマートなフォルムなのだ。
違いは口金にある。一般的ながまぐちの口金は、溝が下を向いており、外側に突起が付いている。他方、「TENMIZO GAMAGUCHI #3」の口金は溝が上を向いており、財布の開閉に必要な突起は内部に収まっている。ちなみに、TENMIZOは漢字で天溝と書く。
「TENMIZOシリーズは、薄さとコンパクトさが最大の魅力ですが、それを可能にしているのが天溝口金の存在です」
そう話すのは、東京・墨田区を拠点とするブランド「GNUOYP(ニュピ)」のディレクター、小川陽生さん。わずか1cmの厚みと片手に収まるコンパクトさを可能にする天溝口金こそが、作品の核となっているのだ。
今回の作品に使われている天溝口金は、東京・墨田区に工場を構える川島工芸所にて製造されている。ここでつくられる天溝口金は、真鍮製ゆえに屈曲などの微調整が可能。一つひとつの口金を手作業で曲げる職人の技術が、小川さんが頭に思い描くサイズ感を現実のものとした。
「TENMIZOシリーズの#1と#2は長財布なのですが、真鍮製の口金ならほかに違うかたちがあるはず、もっとポテンシャルがあるはずということはずっと考えていまして。そこで、キャッシュレス時代に合わせてがまぐちのコンパクト化を考えました」
やや難易度の高い小川さんのオーダーを受けてくれたのは、川島工芸所の4代目である川島悠生さん。ふたりが出会ったことで、プロジェクトはさらに加速していった。
川島さんの信条は「かゆいところに手が届くものづくり」。小川さんの細かな要求に応える技術力とサービス精神を兼ね備えている。二つ折りのがまぐちが180度開くのも、川島さんの職人技によるものだ。
天溝口金を用いてがまぐちをつくるのは、千葉・千葉市にて革のがまぐちを扱う店舗兼工房「中川守和匠店」を営む中川守和さん。がまぐち職人として50年のキャリアを誇る中川さんは、天溝口金の扱いに長けており、熟練の技術で天溝に革をはめ込んでいく。針や糸を使わず、口金に革を固定させていくようすは圧巻である。
「口金を扱える職人さんは、年々減少していますが、中川さんはいまも現役でがまぐちをつくり続けています。天溝に革をはめ込む作業を『革巻き』というのですが、中川さんはこの繊細な工程のスペシャリストです。また、僕以上に使う人のことを考えていて、見えない部分のちょっとした微調整をしてくれます」
ちなみに、がまぐち内部のカード入れや小銭入れの縫製は、東京・板橋区の眞砂というメーカーへ依頼。一流の職人に任せることでクオリティを確保している。また、革は害獣として駆除された鹿の革を使用。キズはなるべく活かし、一点もののプロダクトに仕上げている。
こうして完成した作品の魅力について、小川さんは次のように語る。
「薄さとコンパクトさはもちろん、片手で持ったときの収まりと、鹿革ならではのやわらかな感触も大きな特色です。また、このがまぐちはワンタッチで開閉するのですが、そのときに響く音はとても心地よく響きます。全体的にときめくようなプロダクトに仕上がったと自負しています」
実際に試用してみると、小川さんの言葉の意味がよくわかる。開け閉めの際に鳴る「パカッ」という音は何度も聞きたくなる不思議な魅力があるし、鹿革のさわり心地もなめらかで手のひらに吸いつくようである。
これほどのクオリティのがまぐちを仕上げるには、チームとしての合意形成が必要だ。小川さんは、職人たちとのコミュニケーションを「セッション」と表現する。
「僕自身の役割は、職人さんとセッションしてプロダクトの完成度を高めることです。もちろん、譲れない部分もありますが、極力職人さんの声を聞いてものづくりに落とし込むようにしています。職人さんあっての僕ですからね」
小川さんは、自身が関わる職人の技術に畏敬の念を抱いており、そのレガシーを後世に伝えていきたいと考えている。
「僕自身は職人ではなく、あくまでコーディネーターでありディレクターなので、技術を継承するという立場にありません。職人さんをもっとも喜ばせるのは、たくさんの人がものを使ってくれることなので、そうすることで使い手の方たちに職人さんの技術を伝えていきたいです。そして、今後は職人さんたちが仕事を継続できるような環境づくりに携わってみたいですね」
ブランド名のGNUOYPは造語だが、反対から読むと「YOU」という文字が入っている。この言葉には、他者への敬意と自分への戒めが含まれているという。
「仮に製品が売れたとして、そのときに調子に乗らない自分でいたいな、と。職人さん、製品を使ってくれる方たち、さらには代々ものづくりをしてきた家族のおかげで自分が生かされていることを、常に忘れずにいたいと思います」
文=吉田 勉
写真=加藤史人