
フリー部門
フューチャーデザイン賞
Percussion
TOMOWORKS
古くから、皮革は楽器に欠かせない素材であった。とくに、ドラムやパーカッションのヘッド(打面)に「皮」が使われているケースは多く、例として、日本の和太鼓、インドのタブラ、西アフリカ諸国にルーツを持つジャンベなどが挙げられる。
この関連性を踏まえ、ヘッドホンのハウジング(スピーカーの役割を果たすドライバーユニットを内包している筐体)を太鼓に見立てて「革」で製作されたのが、「ジャパンレザーアワード 2025」のグランプリ受賞作、「Percussion(パーカッション)」だ。
「僕は以前からヘッドホンをつくっていたのですが、ジャパンレザーアワードへの応募にあたり、これまでヘッドバンドにしか使っていなかった革を各部に用いてみようと考えまして。そこから、スネアドラム(両面太鼓の一種で、裏面にスネアと呼ばれる響き線が張られている)のようにハウジングの表面を革張りにするというアイデアが浮かびました」
そう語るのは、製作者のウエダトモユキさん。こうして、巧妙なギミックの施された独創性に富むヘッドホンが誕生した。
まずはハウジングに焦点を当てよう。外側のイヤーカップをスネアドラムのヘッドになぞらえているのだが、張っている革には精緻な技巧が盛り込まれている。
「ウェットフォーミングといって、水で濡らした革を型に押し当てて乾燥させ、立体的にする技法を駆使しています。この革をボルトでボディに固定しているのですが、革のテンションによって音が変化する構造になっており、パワフルな中低音が鳴るようベストな張り具合に固定しています。また、音で振動するように革を張っているので、聴覚だけではなく、触覚にも訴えかけてくる音楽体験が楽しめます」
ボディは3Dプリンタで成形しているが、そのまま用いると「3Dプリンタでつくったことがひと目でわかってしまう」とウエダさん。重厚感を出すために、一工夫を凝らしている。
「ボディは研磨し、パテを盛って、削ってを繰り返したのち、マットな質感に仕上げるチッピング塗装を行っています。こうすることで、鋳鉄のような風合いを表現しています」
受賞作に革が使われている部分はおもに3つ。ハウジングとヘッドバンドにはヌメ革を、内側のイヤーパッド(装着時に耳に当たるクッション部分)にはクロムなめしの革を用いている。
「ハウジングとヘッドバンドに使っているヌメ革は、意識してワイルドな風合いのものを選びました。ヘッドホンのようなオーディオが好きな人たちにも、パッと見て革を使っていることが伝わると思います」
一方、イヤーパッドにクロムなめしの革を使っているのは、耐久性を考えたうえでの選択だ。
「イヤーパッドは文字どおり耳に触れるので、タンニンなめしの革を使うといずれ汗で伸びてしまいます。そのため、長く使えるクロムなめしの革を選びました」
一口に革といっても、タンニンなめしとクロムなめしでは特性が大きく違う。ヘッドホンの各部位に最適な革を使用することで、合成皮革を用いている既製品とは異なる魅力を付与している。
ヌメ革を用いているプロダクトは、使い込むことで独特の風合いに変化していく。他方、ヘッドホンも長く愛用することで音質が変わっていくとされている。「変わっていく」と言い切れないのは、科学的な根拠がないためだ。
「ヘッドホンのエイジングについては賛否両論があり、また、賛の立場に立つ人の中でも『経年変化で本当に音が良くなるのか』という議論があるため、使い込むことで音がよくなっていくという言い方をするのは難しい面があります」
このエイジングについて、ウエダさん個人としては「頭の中で『音が良くなったかな』と考えながら、ヘッドホンというプロダクトとともに生きていく感覚が楽しい」と話す。
「エイジングを信じているオーディオファンの中には、鳴らし続けることで音に深みが出るようになったという人も確実にいます。革も同じで、使い続けることで味わいが増していく。この2つの組み合わせは新しいのではないかと思っています」
ウエダさんは、オーディオ機器の製作を主軸としているが、それらに革素材を用いることに楽しみを見出している。
「革の魅力は自由度が高いところです。形を変えられたり、染めたり、縫えたりする素材は中々ないですし、特に頭に装着するヘッドホンにはその特性が活かしやすいと思っています。また、革は匂いもいいですよね。自分の製作したヘッドホンを装着した方から『いい匂いがする』といわれることが多いです」
今後も、ヘッドホンを中心に製作していきたいというウエダさん。最後に、クリエイターとしてのモットーを聞いた。
「オーディオ製品をつくるうえで、常に個人が製作したようには見えないクオリティを目指しています。もうひとつは、専門メーカーがつくらない、つくっていないものを製作したいという思いがあります。既製品と似てしまっては目立たないので、ギミックを取り入れたり革を使ったりすることで、オリジナリティを表現しています」
ウエダさんの作品は、音で振動する「Percussion」のハウジングのように、音楽を楽しむ人の心を震わせ、弾ませるだろう。
文=吉田 勉
写真=加藤史人