フリー部門
ベストプロダクト賞
leather “丸亀団扇”
mini wallet
atelier Ripple
団扇とウォレットを組み合わせた「leather “丸亀団扇” mini wallet(レザー まるがめうちわ ミニウォレット)」が、フリー部門 ベストプロダクト賞に選出された山口洋平さん。受賞の一報を受け、はじめに浮かんだ言葉は「まさか」だったという。
「毎年、『ジャパンレザーアワード』のウェブサイトを通じてすばらしい作品を見ていて、私自身もいつか入賞することにあこがれていました。作品を評価していただき素直にうれしかったですし、個人的な事情で自信をなくしかけていたタイミングでもあったので、励みになりました」
山口さんは、移住先の香川県東かがわ市を拠点にするレザークリエイター。メーカーに勤務する傍ら、自身の工房「atelier Ripple(アトリエ リップル)」を主宰し、「農業×地場産業」をテーマにバッグの製造、ランドセルのリメイク、アボカドの栽培などに取り組んでいる。
今回の受賞作は、そんな山口さんの地縁を活かしたものとなっている。
作品の骨格をなしているのは、香川県丸亀市の伝統工芸品「丸亀団扇」だ。
「丸亀団扇をつくっている同い年の職人と知り合う機会があり、同世代で頑張っているという境遇が似ていることから意気投合し、『何か一緒にできるといいね』という話になりまして。その後、話を進めるうちに、革小物の技巧と丸亀の伝統を融合させてみようというアイデアが浮かびました」
団扇に薄く漉いた革を貼るだけではなく、革で製作したミニウォレットの機能を付加するという発想はじつにユニークだ。山口さんは、団扇と財布を組み合わせた意図について、次のように語る。
「やはり、丸亀団扇を使ってほしいという思いが一番大きかったです。伝統工芸品とはいえ、お膝元である丸亀市でも団扇を持ち歩く人は明らかに減っています。そんな中で、キャッシュレス時代に合わせてミニウォレットを付けることで、夏に浴衣を着るときだけでも丸亀団扇を持ってもらえればと考えました」
また、香川県では1980年代以降、里山の放置によって竹林の拡大が進み、森林の生態系に悪影響を及ぼしている。山を守るために間引きされた竹と、食肉の副産物である革を組み合わせるという手法は、持続可能性が重視される現代に即している。
伝統工芸品としての丸亀団扇はベースとなる竹の骨組みに和紙を貼ったもので、47の工程によって完成する。一方、山口さんの作品は、紙の代わりに薄く漉いた革を貼ることでオリジナリティを表現している。
「革は強度と重さ、扇いだときの竹のしなり具合を考慮し、0.5~0.6mmに漉いたヌメ革を用いています。和紙と比べるとパワフルな風が起きますし、革独特のいい匂いがするのも特徴です。ちなみに、箔押ししている家紋は丸亀藩・京極家の四つ目結紋です」
この団扇に革のミニウォレットを縫い付ける際には、重量および負荷を最小限に抑えつつ、団扇としての機能を損なわないように留意している。
「団扇に財布を付けたら確実に重くなるので、団扇に貼っている革と同程度に薄い革を用いています。財布はカード、コイン、紙幣を収納できるミニマムな大きさです。また、竹の骨組みに負荷をかけないよう小さなギボシの留め具を使ったり、風を送る際に邪魔にならないよう下部に縫い付けるといった工夫を施しています」
作品の機能性を確認するため、山口さんは実際に応募前にこの作品を試用している。
「コンビニで会計をするときに、財布の部分にカードを収納している団扇をかざし、革一枚を挟んでピッと音が鳴ることを確認しています。浴衣姿だと、どうしてもバッグを合わせるコーディネートは難しいのですが、この団扇を持っていれば、夏のお祭りや花火大会の際に、浴衣姿で簡単にカード決済ができます」
また、応募前には「atelier Ripple」のファン向けにライブ配信を行い、試作品を公開して意見を募った。ユーザー視点を取り入れることで、独善に陥らず客観性を確保している。
「私は普段から『企画開発会議』と称してライブ配信を行っているのですが、今回の作品もオンラインでプロトタイプを披露して、見ず知らずの方たちの意見を聞くことで、より楽しくものづくりができたという実感があります」
さらに、今後のために量産体制も整えている。山口さんに抜かりなしである。
そもそも山口さんは埼玉県出身。大学卒業後に入社した企業の辞令で東かがわ市に赴任し、結婚して子どもを授かった。その後、海に近い環境と人のやさしさに惹かれ、退職してこの街に根を張ることを決意。「地域に恩を返したい」という思いから、現在も地場産業である縫製業に携わっている。
そんな山口さんは、レザークリエイターとして大きな目標を持っている。
「地場産業でもある縫製業を未来につなげていきたいです。私が高校に出向いて講義をしたり、子ども向けのワークショップをしたり、ライブ配信でものづくりの楽しさを伝えたりしているのも、すべては縫製業を盛り上げるためです。縫子さんが減っている現状の中で、楽しそうに仕事をしているやつがいるぞ、って思ってもらえれば最高ですね」
工房の名前である「リップル」はさざ波を意味する。今回の受賞が追い風となってさざ波が大波となり、丸亀団扇の復興につながることを期待したい。
文=吉田 勉
写真=加藤史人