4つのクエスチョン
『ジャパンレザーアワード』審査を担当する7名のスペシャリストに、審査における4つのポイントを伺いました。
- Q1 審査で心がけていること
- Q2 革素材の魅力
- Q3 デザインとは何か
- Q4 今後の応募作に期待すること
長濱 雅彦審査員長
2017年度から当アワード審査員長を務める
東京藝術大学美術学部教授/専門はプロダクトデザイン。日経デザイン記者を経て⾧濱デザインオフィス設立。グッドデザイン賞、KSP賞、イエローペンシルなど受賞多数。近年は次世代の生活支援ロボットのデザイン研究などを行っている。
- Q1審査で心がけていること
- 市場に合わせたものづくりも大事ですが、最近ではより個人的な想いが込められた製品が多くなっているのではないでしょうか。そういった意味では、『ジャパンレザーアワード』でも、作品の持つメッセージ性に注目しています。どんな想いが込められているのか、その想いは果たして多くの人に共感を得られるものなのかどうか。これらが作品を通じて見えているかどうかに注目しています。
- Q2革素材の魅力
- 革は薄くしたり、曲げたり、折ったり、さらには削ってソリッド材にすることもできたりと、様々な加工ができるとても自由な素材です。それでいて長く使っていても加水分解のようなことも起きない、プロダクトに落とし込むにあたって非常に優秀な素材です。
- Q3デザインとは何か
- 広く、多くの方に手にとってもらえるように考えられた、市場を意識したデザイン。一方で最大公約数ではないメッセージ性の強いデザイン。どちらかに尖っていても良いとは思いますが、その両者のバランスがとれたものが優れたデザインと言えるのではないでしょうか。
- Q4今後の応募作に期待すること
- 家族みんなで使う、いつまでも長く使えるということも大事ですが、もっと個のニーズに合わせたアイデアが増えても良いのではないでしょうか。鞄はこうあるべき、靴はこうあるべきという既成概念を打ち破るような作品を期待しています。
有働 幸司
2016年度から当アワード審査員を務める
ファッションデザイナー。東京モード学園卒業後、株式会社BEAMS入社。退社後、ロンドンに留学。帰国後、国内ブランドの立上げに参加。その後独立し、FACTOTUMをスタートさせる。現在、モード学園の特別講師も務める。
- Q1審査で心がけていること
- 商品力はあるか、革新的アイデアはあるか、それぞれのカテゴリーの基準に照らし合わせて見ています。自分だけでなく、それが多くの人にどのように届くかをイメージし、客観的視点を入れて審査するようにしています。
- Q2革素材の魅力
- 経年変化を楽しめるところが一番の魅力です。使い込むことによって風合いがでてきたり、身体に馴染んできたり。また、経年に耐えうる素材というところも強みでしょう。そんな経年変化を計算してデザインする必要はありますが、それは難しい反面、楽しい要素でもあると思います。
- Q3デザインとは何か
- 使ってくれる人が喜んでくれるものになっているかどうかが大切だと思います。どんな人が手にとってくれて、どんなシーンで使ってくれるかを、つくり手が想像できているかどうか。その想いと自分が作りたいもの、さらには素材やトレンドなどともバランスをとる、それがデザインの役割だと思います。
- Q4今後の応募作に期待すること
- ここ数年はジャポニズム的なものづくり思想が反映されたものが増えている気がします。それは侘び寂びのような日本ならではの美意識や、シンプルだけど機能的なもの。使う人、シーンを大切にしたものづくり。これからもそんな日本ならではの作品に期待しています。
佐藤 泰行
2021年度から当アワード審査員を務める
婦人靴・婦人雑貨バイヤー(株式会社 三越伊勢丹)。マーチャンダイジング部にて婦人雑貨の開発から販売に至るまでのマーケティングを行う。これまでに、銀座三越にて日本のなめし革・革製品の催事、商品開発、インスタライブ配信などのディレクションを手掛けてきた。
- Q1審査で心がけていること
- つくっている方のパーソナルな部分に注目しています。店頭に並んだ時に、お客様に伝えたいコンセプト、背景があるかどうか。現場の感覚ですが、コロナ禍が明けてからその視点が特に重要になってきていると感じています。
- Q2革素材の魅力
- 経年変化で生まれる個性が革の一番の魅力です。レザープロダクトをあえて選んでいただく方には何年も何十年も使っていただきたい。時間とともに味がでる革の魅力が、上手に反映されているプロダクトが理想です。
- Q3デザインとは何か
- 使うことで利便性が増すかどうか。持つことで気持ちを上げる演出ができるかどうか。この2つを兼ね備えているデザインが理想です。大切なことは、お客様にそのイメージをもってもらえるデザインとなっているかだと思います。
- Q4今後の応募作に期待すること
- 機能的で、魅力的な作品であることはもちろんですが、それをどうアピールしていくかが重要な時代になってきています。多くの人がつくり手の想い・コンセプトに注目しているからこそ、出品するだけでなく、普段からどのような発信をしているのかも重要な施策になってくるのではないでしょうか。
中山 路子
2016年度から当アワード審査員を務める
ファッションデザイナー。2007年からMUVEILとしてスタートを切る。2012年「ギャラリーミュベール」をオープン。2013年からグランマをミューズにしたジュエリーブランド「グランマティック」のディレクションを手掛ける。
- Q1審査で心がけていること
- 応募シートに書かれているコンセプトをまず読み解きます。そのうえで、作品としてカタチになっているか、どう表現されているかに注目。最後に手にとり、触れて、使ってみて、使いやすいかどうかなど機能的な部分をチェックし、総合的に審査をしています。
- Q2革素材の魅力
- 使い方、ケアの仕方で個性が生まれる経年変化はやはり素敵だなと思います。加えて、これは『ジャパンレザーアワード』で多くの作品に触れて感じたことですが、美しかったり意外性があったり、見た目的にも印象として残る素材だと思いました。使って、触れて、眺めて、革は幅広い特性を持っていることに驚かされています。
- Q3デザインとは何か
- 高揚感があるかどうかが大事だと考えています。それは、見た時の高揚感の場合もあるし、触れて使ってみて感じる高揚感の場合もあります。気持ちが昂る、感動するものがあるかがデザインにはあって欲しいです。
- Q4今後の応募作に期待すること
- 毎回、驚くものが多いです。特に最近はインテリアやインドアで楽しめる、暮らしの中で楽しめて心が豊かになるものが増えていると思います。これからも、より暮らしに近い、日用品などの出品が多くなればいいなと思います。
廣田 尚子
2020年度から当アワード審査員を務める
デザインディレクター/ヒロタデザインスタジオ代表/女子美術大学教授。ビジネスデザインを立脚点に、企業戦略・インナーブランディング・プロダクトデザインまで企業の成⾧戦略をトータルに手掛ける。RED DOT DESIGN AWARD、IF Design賞、グッドデザイン賞他受賞多数。
- Q1審査で心がけていること
- クリエイターの方がどのような視点を持っているか、その視点がどのように作品に表現されているかを意識して審査させていただいています。デザインやつくりなど単一的なことだけでなく、コンセプトやその表現力まで総合的にみることで、キャリアや技術に関係なく多様性のある審査ができるのではと考えています。
- Q2革素材の魅力
- 食肉の副産物であり、長く私たちの生活に寄り添ってきた素材であるということが広く認知されてきています。さらにこの先も共存できる、持続可能な素材であるということがより広まっていけばよいなと思います。
- Q3デザインとは何か
- 視点を見つけることからデザインはスタートしています。何に関心を持つか、どんな課題を持つか、視点の置きどころをどこにするか。そこから思考を巡らせ、ものづくりにつなげることでデザインは生まれます。今の時代には多くの課題があり、様々な視点が見つかると思います。
- Q4今後の応募作に期待すること
- みなさんがどのような視点を持っているか、作品だけでなくコンセプトシートにも詳しく記していただけると審査する側も楽しく審査できます。日頃から様々なことに関心をもっていただき、それを作品として表現していただけばと思います。
政近 準子
2024年度から当アワード審査員を務める
パーソナルスタイリスト創始者。東京スタイル(デザイナー)を経てイタリアへ移住。帰国後に個人向けスタイリングサービスを提供する「ファッションレスキュー」を設立。政治家、経営者、企業管理職、起業家などの富裕層を主に顧客に持つ。著書12冊。
- Q1審査で心がけていること
- まず作品のコンセプトです。それは時代に必要とされているものなのか、そのためにどうアンテナが張れているのか。その人がどんな興味や価値をもっているのかという情報を入れたうえで、作品を見ています。加えてチャレンジしているかも重要です。新しいことに向かっているからこそ生まれる、新鮮なアイデアを見てみたいです。
- Q2革素材の魅力
- その素材がどのように誕生しているのかを、見て、触れて、感じることができる貴重な素材だと思います。革は、身に付けることによって天然素材の大切さに気づかされ、考えるきっかけを与えてくれるものではないでしょうか。
- Q3デザインとは何か
- デザインとは可能性を実現させるもの。社会的な課題でも個人の課題でも良いのですが、テーマ・コンセプトをどのようにプロダクトとして表現させるかに必要な要素が、デザインだと考えています。
- Q4今後の応募作に期待すること
- 作品を通じて、ご自身の日常や視点などが見えるような作品が多くでてくることを期待しています。ライフスタイル、ものづくりへの想いなど、もっとパーソナルな部分を作品に反映していただけると審査している側としても楽しくなります。
若杉 浩一
2020年度から当アワード審査員を務める
プロダクトデザイナー/インテリアデザイナー/ソーシャルデザイナー。武蔵野美術大学、クリエイティブイノベーション学科教授に2019年4月から着任。1959年熊本県天草市生まれ。九州芸術工科大学工業設計学科卒業。
- Q1審査で心がけていること
- プロダクトデザイン部門では、製品としての完成度やディテールをチェック。フューチャーデザイン部門では、今までにないコンセプトや素材の使い方など、斬新さをポイントに審査しています。
- Q2革素材の魅力
- 我々の生活において過去累々と生産されてきたものの副産物であるということを考えると、革とはもっと活用されて良い素材だと思います。食として利用された後にも、その素材がその先何世代にも渡って使われる可能性があります。サステナブルな社会を目指すという現代の課題を象徴する素材なのかもしれません。
- Q3デザインとは何か
- デザインとは、心を豊かなにする唯一のテクノロジーです。利便性や合理的な考え方である工業的なテクノロジーとは違い、もっと本質的に暮らしの営みに寄り添うことができるものではなでしょうか。
- Q4今後の応募作に期待すること
- 多様化されている現代において、限られた人だけでなく多くの方々が、デザインやものづくりに関わっていく世の中になっていくと考えています。本コンテストを通じても感じることですが、多様な方たちがものづくり関わっていく時代になると思いますし、そうなっていって欲しいと思います。
まとめ
審査員に共通していたのが作品の背景や物語、つくり手のパーソナルな部分に注目しているということ。多様性が求められる今だからこそ、画一的ではない、革素材の魅力を活かした作品がこれからのプロダクトにはより求められていくのだろう。既成概念を超える発想や、使用者の視点を大切にしたデザイン、パーソナルな要素の表現が期待されている。