審査員紹介

新たな世界の扉を開くきっかけに

毎年恒例の『ジャパンレザーアワード』に欠かせないのが、審査員の存在。一つひとつの作品を丁寧に見るのはもちろん、そこに込められた思いや背景まで汲んで評価をしている。

総評

地球に優しい。人に寄り添っている。そのような志向のプロダクトが求められる時代です。昨今の『ジャパンレザーアワード』では、端切れや床革を利用するなど、SDGsを意識している作品が多く寄せられます。自由な発想の作品が多く見られたので、展示会にご来場いただけた方たちには楽しんでいただけたと思っています。これらの応募作が、新たな世界の扉を開くきっかけとなれば幸いです。

4つのクエスチョン

各分野で活躍する6名のスペシャリストに、以下の4つの質問を投げかけた。

  • Q1 審査で心がけていること
  • Q2 革素材の魅力
  • Q3 デザインとは何か
  • Q4 今後の応募作に期待すること

長濱 雅彦審査員長

長濱 雅彦

2017年度より当アワード審査員長を務める

東京藝術大学美術学部教授/専門はプロダクトデザイン。日経デザイン記者を経て長濱デザインオフィス設立。グッドデザイン賞、KSP賞、イエローペンシルなど受賞多数。近年は次世代の生活支援ロボットのデザイン研究などを行っている。

Q1審査で心がけていること
つくり込みの完成度、造形の美しさといった基本的な要素以外に、作品の持つ背景や物語にも注目しています。たとえば、昨今はSDGsという言葉をよく耳にしますが、社会に対する関心を感じない作品は、使っていても心地よくないように思います。そういう意味で、審査する側として作品のバックグラウンドに踏み込む必要性を感じています。
Q2革素材の魅力
革は本当に自由な素材です。その自由さを引き出してくれる技術革新が、デジタル化の推進によってより期待されています。将来的には思いもよらない加工法が生み出されるかもしれません。また、石油から生産されたものではない、脱プラスチック素材であることも大きいと思います。
Q3デザインとは何か
松下幸之助さんは戦後、アメリカの百貨店でさまざまなプロダクトを見て「モノにはデザインが必要だ」と確信したそうです。その後の日本において、デザインは人々の未来の物語をつくってきました。それから今日に至るまで、未来系のプロダクト=スタイリッシュと受け止められてきましたが、モノが行き渡ったいまの世の中において、ただカッコいいだけのものは通用しなくなっています。重要なのは、新しい社会との関わり方です。地球にやさしい、人に寄り添っている、そのような志向性のある「仕組みのデザイン」が求められています。
Q4今後の応募作に期待すること
人間の暮らしに必要なもの、生活必需品に革を使ってもらいたいです。その際には、吸湿性などの素材特性をしっかりと活かすことが重要です。これまでにない革を使った生活必需品の応募を楽しみに待ちたいと思います。

廣田 尚子

廣田 尚子

2020年度より当アワード審査員を務める

デザインディレクター/ヒロタデザインスタジオ代表/女子美術大学教授。ビジネスデザインを立脚点に、企業戦略・インナーブランディング・プロダクトデザインまで企業の成長戦略をトータルに手がける。RED DOT DESIGN AWARD、IF Design賞、グッドデザイン賞他受賞多数。

Q1審査で心がけていること
発想にオリジナリティがあるかどうかを評価の軸にしています。単に新しい、ほかとは違うということではなく、その人自身が未来に対してどんな考えを持ち、作品を通じてどんな未来を描いているかが大切です。
Q2革素材の魅力
自然の素材として、あるいは食肉の副産物という命の恵みとして、いろいろなかたちで長く人間に寄り添ってきた素材だと思っています。日本人にとっては木に近いような存在としてずっと親しまれ、愛されてきました。これからも大事に使っていきたい素材のひとつです。
Q3デザインとは何か
ひとつは、広く問題を解決するための思考力にデザインという言葉を使っています。たとえば、『ジャパンレザーアワード』の応募作に見られるような、無駄な素材を出さないための工夫がデザインになると思います。もうひとつは、楽しさや驚き、感動や幸福感をもたらす、つまり心を豊かにする提案もデザインの持つ大きな力です。この2つのどちらか、あるいは合わせ技を駆使してものづくりをしていただけたら、デザインを活用していると言えるのではないでしょうか。
Q4今後の応募作に期待すること
人の感度やライフスタイルが変わる、そんな発想が込められている作品に出合えたらうれしく思います。そのモノがあることで、今までできなかったことが簡単に楽しくできるようになる、あるいは、できなかったことをやってみようと思えるようになる、そのような提案に期待したいです。デザインによって人の生活が変わる、その先の行動が変わる。そんな未来はとても素敵だと思います。

若杉 浩一

若杉 浩一

2020年度より当アワード審査員を務める

プロダクトデザイナー/インテリアデザイナー/ソーシャルデザイナー。武蔵野美術大学、クリエイティブイノベーション学科教授に2019年4月より着任。1959年熊本県天草市生まれ。九州芸術工科大学工業設計学科卒業。

Q1審査で心がけていること
プロダクトを通じ、新しい暮らしや社会にどんな提案をしているのかという視点で毎年楽しく作品を見ています。食肉加工の副産物である革をどのように役立てるのか、そのチャレンジは、サスティナブルな社会へのひとつのアプローチなのではないかと思います。
Q2革素材の魅力
歴史上、古いマテリアルですが、新しいテクノロジーや加工技術が生まれることで、よりたくさんの人たちがチャレンジできる素材になってきているように思います。食肉の副産物であることを考えると、サスティナブルな社会に貢献できるマテリアルでもあると言えます。
Q3デザインとは何か
一般的な意味でのデザインは、技術的、あるいは商業的なニュアンスが強いものです。一方で、僕はデザインを可能性の翻訳だと思っています。たとえば、工業化のプロセスで生まれる端材を社会に再生していく、その過程すべてがデザインと呼べるように思います。現代的な問題を解決するアプローチであり、そこに潜む可能性を翻訳しているからです。
Q4今後の応募作に期待すること
コロナ禍以降、新しい未来に向けてチャレンジしていくようなプロダクトの応募が多いように感じています。端材を使う、キズを持ち味として活かすなど、今までの革製品にはなかった新しいアプローチが生まれるとより面白くなると思います。

佐藤 泰行

佐藤 泰行

2021年度より当アワード審査員を務める

婦人靴・婦人雑貨バイヤー(株式会社 三越伊勢丹)。マーチャンダイジング部にて婦人雑貨の開発から販売に至るまでのマーケティングを行う。これまでに、銀座三越にて日本のなめし革・革製品の催事、商品開発、インスタライブ配信などのディレクションを手掛けてきた。

Q1審査で心がけていること
2つあります。もっとも重要視しているのは、直感的に自分自身が使ってみたいかどうかです。使っているシーンを想像した時に楽しい気持ちになるのか、毎日使いたくなるのか、という視点です。もうひとつは、プロダクトの背景です。いまは多くの製品がマス向けからパーソナル向けにシフトしているので、表層的な部分だけではなく、そこに込められた思いを感じたいです。
Q2革素材の魅力
何年も使うことによって個性が出る唯一の素材です。経年変化を楽しめ、使えば使うほど価値が上がっていくプロダクトは革製品しかないと思います。一方、サスティナブルという言葉が謳われる世の中で、革が食肉の副産物であることが十分に知られてない。その事実を世界中に伝えることも大切だと思います。
Q3デザインとは何か
デザインには、ファッションと機能の2軸の視点があると思っています。ファッションが軸の場合は、洋服に合わせて自分らしさを表現できるか、好みのフォルムや色かを見る。機能が軸のときは、実際に使っていて快適かどうかを考慮する。それぞれの軸がマッチすればいいけれども、必ずしも両立させる必要はないと思っています。
Q4今後の応募作に期待すること
デジタルガジェットとのユニークな組み合わせです。スマートフォンケースやタブレットケースはありますが、既存のプロダクトに合わせるだけにとどまらず、もう一歩先を見てみたいです。世の中の先を読んだ提案に可能性があると思います。

坪井 浩尚

坪井 浩尚

2020年度より当アワード審査員を務める

プロダクトデザイナー。禅の思想を背景にアート・サイエンス・テクノロジーと自在に領域を横断し、対象の環境を柔軟に読み解くアプローチに定評があり、現在までインダストリアルデザインを中心に幅広い製品を手がけている。

Q1審査で心がけていること
ユーモアがあって楽しいと思えること、プロダクトとしてちゃんと機能すること、この2つを評価の基準にしています。コンセプトとプロダクトの結びつきも重視しています。
Q2革素材の魅力
生き物の命を授かってできた素材なので、愛着が湧きやすいです。使い込むごとにどんどん味が出てくる、育てる楽しさを感じられるところが魅力的です。
Q3デザインとは何か
プロダクトデザイナーとして考えると、大切なのはやはりバランスです。自分が表現したいデザインとお客様の使い勝手がうまく噛み合ったもの、それが長く愛されるデザインだと思います。
Q4今後の応募作に期待すること
世の中には、革ではないのに革のように見える素材が多くありますが、その逆で、革を使っているけれど革製品に見えない、といった発想があっても面白い気がします。いまの技術ならきっとできると思うので、垣根を取り払った作品に期待したいです。

有働 幸司

有働 幸司

2016年度より当アワード審査員を務める

ファッションデザイナー。東京モード学園卒業後、株式会社BEAMS入社。退社後ロンドンに留学。帰国後、国内ブランドの立上げに参加。その後独立し、FACTOTUMをスタートさせる。現在、モード学園の特別講師も務める。

Q1審査で心がけていること
一人ひとりの思いの強さやストーリーなど、あらゆる観点からトータルに見ています。自分が共感できるか、世の中に広まったときに評価されるかどうかを考えて審査をするよう心掛けています。時間をかけてつくられた力作が多く、いつも感心させられます。
Q2革素材の魅力
やわらかい、弾力がある、光沢が美しいといったテクスチャーに加え、加工によって透明感を出せるなど、味付けしやすいところが魅力です。また、身体に馴染みやすい素材でもあります。ひとつの素材を極める試みはいろいろな可能性を秘めていると思うので、『ジャパンレザーアワード』自体に大きな意義があると思っています。
Q3デザインとは何か
根源にあるのは、誰かのために何かをするという思いではないでしょうか。エラーやストレスを改善し、機能や意匠、素材やトレンドに折り合いをつけ、いかに喜んでもらうのかを考える。思いを反映させる試みがデザインであり、いかにビジュアライズするかが大切だと思います。
Q4今後の応募作に期待すること
元々のレザー文化は欧米のものですが、『ジャパンレザーアワード』においては、日本的な美意識をうまく溶け込ませている作品が多く見られます。今後、ジャパンメイドのレザープロダクトが世界的なブランドになるためには、日本的な要素は欠かせないはずです。欧米の模倣ではなく、日本らしさがあって世界に輸出できる、そのような作品に期待しています。

中山 路子

中山 路子

2016年度より当アワード審査員を務める

ファッションデザイナー。2007年よりMUVEILとしてスタートを切る。2012年「ギャラリーミュベール」をオープン。2013年よりグランマをミューズにしたジュエリーブランド「グランマティック」のディレクションを手掛ける。

※Q&A準備中

※上記内容は2023年度情報です。

まとめ

どの審査員も、応募者が作品に費やした労力に敬意を表し、真摯なスタンスで評価を下していることがよくわかるQ&Aとなった。世の中の一歩先を行く提案やアプローチによって、未来の生活が変わる――。審査員は、そんなプロダクトを待っている。