アーティスティックデザイン賞
ミライツクルクツ
ramkere
赤いうろこに、ぎょろりと睨みをきかせる大きな目玉。ドラゴンを模したその作品は、一度見たら忘れられない強烈なインパクトを放っている。
「私は靴を制作するパートのみを担当。デザインをしてくれたのは、じつは中学生なんです」
懇意にしているカフェの客や、友人の甥っ子姪っ子。そんな子どもたちからデザイン画を募り、それをもとに実際の靴をつくりあげる。これが、今回の作品のアイデアだ。
「今年の3月まで、ヒコ・みづのジュエリーカレッジのシューズコースに通っていました。その卒業制作として取り組んだものなんです。20人くらいの子どもたちがデザインを描いてくれたんですが、その中から3つを実際に制作。そのうちのひとつが、この作品です」
ものづくりの出発点ともいえる、デザイン。工藤さんがこの作業を子どもたちに託した理由は、「ミライツクルクツ」というタイトルに表されている。
「描いた絵が現実になったら、本人にとってはすごく『自分を認められた体験』になるんじゃないかなって。それが結果、彼ら彼女たちの未来につながるかもしれない、そう考えました」
絵を描いたり、粘土をこねたり、小さい頃は夢中になった、ものづくり。でも、歳を重ねて本格的に取り組もうとすると「私には難しい」と、諦めてしまう人も多い。専門学校に通うなか、ドロップアウトしてしまう同級生を見ることもたびたびあったという工藤さん。その可能性の火を消さないために、子どもたちのアイデアを自らの手で形にすることを思いついたのだ。
「受賞作は、よっしーくんという中学生がデザイナーの『よしドラゴン』。見た瞬間に、これをつくりたい!って思ったんです。ドラゴンの立体的なフォルムが求められる、その造形的な難しさにもチャレンジしたいと思いました」
メインで使用したのは、牛の型押しレザー。もともとの色はネイビーだったが、銀面を削り、筆で丁寧に赤い顔料をのせていった。
「刷毛でいっきに塗ると、溝が埋まってしまって、うろこの雰囲気が出ない。1枚1枚塗り続けるという、なかなか根気のいる作業でした」
これを、ぬいぐるみをつくる要領を参考にしながら、有機的なラインで立体的に縫製。
「シューレースをつけてしまっては、せっかくのドラゴンが台無し。でも、履き心地もきちんと実現したかったので、ゴムを入れてフィット感を出すなど、見た目との両立を図りました」
そもそも工藤さんが靴づくりに興味をもったきっかけ。そこには、なかなか興味深いストーリーがあった。
「20代前半から30歳になる少し前まで、バンドをやっていました。何かものづくりがしたいと思ったときに、最初はギタークラフトマンを目指そうと思ったんです」
しかし、ふと考えた。全人口のうち、一体どれくらいの人がギターを弾くだろう。せっかくつくるなら、たくさんの人の役に立つものをつくりたいと考えた。
「それまでの人生で、靴をプレゼントされてうれしかった経験が何度かあって。靴ならみんなが必要とするものだし、それで、靴っていいかも、と思うようになりました」
専門学校に入学したのが2020年。3年のコースを修了し、この春、自身のブランド「ramkere(ラムケレ)」を立ち上げた。
「オーダーメイドでスニーカーの制作を受けようと、ブランドを始めました。結果、最初にきた注文は、じつは今回の『よしドラゴン』の色違いが欲しいというリクエスト。これが記念すべきramkereの初受注ということになりました」
ほかに、段ボール、ガムテープ、緩衝材など、身近な素材を使って靴をつくるワークショップもおこなっている工藤さん。
「ものづくりって、いろいろミックスしたほうがおもしろいし、だからこそ進化もすると思うんです。大人になると、まず意味や理屈を求めがちですけど、そうじゃなくって。おもしろいと思ったことを、とにかくみんなで楽しもう! そういう考え方です」
ブランドのモットーに、「ココロオドルクツヤ」を掲げる工藤さん。楽しそうに話をするその眼差しには、わくわくする未来しか映っていない。
文=中村 真紀
写真=江藤 海彦