無骨なソールと独自染色のアッパー
樹木に〝擬態〟する、唯一無二の一足
無骨なソールと
独自染色のアッパー
樹木に“擬態”する、
唯一無二の一足

フットウェア部門 ベストプロダクト賞 擬態 西野靴店 西野 裕二 さんの画像

フットウェア部門
ベストプロダクト賞

擬態

西野靴店

西野 裕二 さん

削り跡をあえて残した無骨なソールに、木目を模したアッパー。西野裕二さんの受賞作品は、まさにタイトルが示すとおり、樹木に“擬態”したかのようなビジュアルで見る人の心を奪う。広島駅近くの工房を訪ね、ユニークな作品の誕生秘話を聞いた。
西野 裕二さんの作品 擬態の画像

いつか目にした、気になるソール

「昔、ソールをザクザクにカットした靴を見たことがあったんです。不自然な感じが、かっこいいなぁって」
当時まだ会社勤めをしていたという西野さん。自身が靴づくりを始めてしばらくたったころ、印象的だったこの靴のことを思い出した。
「切り株みたいなソールだったので、アッパーも木みたいな雰囲気にしたらおもしろいかな、と。そこから誕生したのが、今回の作品です」

しかし、既製品の木目プリントでは芸がない。国産の白ヌメ革を、オリジナルで染色することを選んだ。
「染める作業は、妻にお願いしました。バイクのペイントなどをしているので、着色は本業。センスも抜群なんで、全幅の信頼をおいています」

西野 裕二さんの作業風景画像

濃淡自在な、オリジナル染色

実際に、染色作業を見せてもらった。いくつかの異なる茶系染料を筆に含ませると、迷いなく革の表面を縦に滑らせる。あっという間に、ナチュラルな木目模様が姿を現した。
「アッパーのパーツによって、濃淡を少し変化させています」
奥様の恵子さんが教えてくれる。なるほど、その絶妙な色加減があるからこそ、この靴独特の奥深い表情が生まれるのだ。

デザインは、男女問わず履きやすいシンプルなスリッポンスタイル。靴底を、縫い糸が露出しないヒドゥンチャネル製法で仕上げている。
「糸を見せないことで、自然物である樹木により近づけようと考えました。その一方で、糸を収める溝を少し浅めにして、凹凸がソールに少し浮き上がるように。糸そのものは見えないながらも存在は感じる、絶妙なバランスを狙いました」

西野 裕二さんの作業風景画像

難しいからこそ、
チャレンジしたい

10回以上の転職を繰り返すも、31歳までは会社員として働いていた西野さん。靴づくりを始めたのは、20代中盤のころだ。
「激務すぎて、精神的にもちょっと参っていて。そのときに、靴づくりの教室に通うようになったんです」

靴を選んだ理由を聞くと、難しいことにあえて挑戦してみたかったのだと話す。 「たとえば財布は、平面で構成されているからある程度つくり方が想像できる。でも、靴って立体じゃないですか。どうやったらできるのか、全然わからない。そのわからなさがおもしろいと思ったんです」
その後は会社員を続けながら、帰宅後に靴づくりに励む日々。そうして2014年、広島駅そばに「西野靴店」をオープンした。

西野 裕二さんの画像

修理、そしてフルオーダーメイド

「当初は、修理をメインに商売を始めました。ばらしては、直して。そうすると、どんどん靴の構造のことがわかってくるんですよね」
しばらくは、修理の仕事と並行して、趣味的に靴をつくっていたという。一般向けに受注をとり始めたのは、ここ1年ほどだ。

「コロナ禍になって、ちょっと時間ができて。それで本腰を入れてつくり始めたんです。ちょうどそのころ、展示会に出ないかと誘われたこともあって。オリジナル商品として、7種類のデザインを仕上げました」
一人ひとりのお客さんの足を計測し、フルオーダーメイドで制作。こうして本格的に、西野靴店の“靴づくり部門”が稼働を始めた。

西野 裕二さんの画像

「自分が一番に決まってる」

技術には、自信がある。修理も、制作も、俺が一番うまいに決まっている。西野さんは満面の笑顔でそう言った。
「いや、そういうふうに言えないとだめだろうって。この仕事を始めたときから、そう思っていました。実際、他のところで手に負えない修理品が、うちに来ることもよくある。それくらいじゃなきゃ、本当にすごい人にはなれないでしょ」

そんな彼が描く未来とは? 最後に野望を聞いてみた。
「靴はもちろん続けていきたいですけど、家具も好きで。レザー張りの椅子とか、いいですよね。デザインしてみたい。真鍮を扱うアーティストの友達がいるから、コラボレーションもいいかも。あ、それ、絶対おもしろい」
楽しい人からは、きっと楽しい作品しか生まれない。そんな人が増えれば、きっと世界はもっと楽しくなるに違いないのだ。

文=中村 真紀
写真=江藤 海彦

作品ページ

受賞者一覧

石橋 善彦 さん

2023年度 グランプリ

ウェア&グッズ部門 ベストプロダクト賞

有限会社 オベリスク

石橋 善彦 さん

アパレル業界で働く
プロによる本気の遊び
刺し子を施したユニークな
レザージャケット

西野 裕二 さん

フットウェア部門
ベストプロダクト賞

西野靴店

西野 裕二 さん

無骨なソールと
独自染色のアッパー
樹木に“擬態”する、
唯一無二の一足

平田 史明 さん

バッグ部門 ベストプロダクト賞

&6

平田 史明 さん

革の特性を
生かすことで生まれた
曲線美と機能美を
両立するバッグ

北崎 厚志 さん

ウェア&グッズ部門 ベストプロダクト賞

chelsea leather art work

北崎 厚志 さん

純国産、ジビエ鹿革で
仕立てる革半纏
技巧と発想で伝える
ニッポンの粋

青木 健治 さん

フットウエア部門 フューチャーデザイン賞

Takivi Leathers

青木 健治 さん

プリミティブに
還ることで
革靴としての
新しい価値観を生み出す

紀井 長 さん

フットウェア部門 フューチャーデザイン賞

個人

紀井 長 さん

持続可能素材としての
革の魅力を再発見
自宅のストックから
生まれた再生スニーカー

多田 智美 さん

バッグ部門 フューチャーデザイン賞

OFFcoast

多田 智美 さん

自分のルーツを
探る旅から発想
人生のアップダウンを
表現した意欲作

野沢 浩道 さん

フリー部門 フューチャーデザイン賞

個人

野沢 浩道 さん

重ねて削るという発想
既存概念を覆す
革へのアプローチ

宮代 結菜 さん

学生部門 最優秀賞

上田安子服飾専門学校

宮代 結菜 さん

異素材の組み合わせで
表現したかったのは
人間の内側にある本質

工藤 サトミ さん

アーティスティックデザイン賞

ramkere

工藤 サトミ さん

中学生の描いた
デザインをもとに制作
子どもたちの自己肯定感を
高める靴づくりとは

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