バッグ部門
ベストプロダクト賞
Rocking Bag
Doc Tote【TIME】
個人
過去3回レザーアワードで受賞し、うち2022年には見事グランプリに輝いた野沢浩道さん。4回目の受賞となる本年度は、2作品セットで、バッグ部門ベストプロダクト賞の受賞となった。雰囲気の異なるふたつの鞄だが、よく見ると、どちらもボトム部分に金属のフレームが取り付けられている。
「やさしい雰囲気をもつやわらかい革と、シャープなイメージで硬質な金属。この相反するふたつの素材のコントラストを見せたい、というのが発想の原点でした」
通常は、ジッパーや留め具などにしか使われない金属だが、しっかりとデザインの一部となるよう仕立てたのが、これら2作品である。
最初に製作に取りかかったのは、丸みを帯びたフォルムが愛らしい「Rocking Bag」。下部の真鍮フレームはゆるやかな弧を描いており、その名の通り“ロッキング=揺れる”バッグとなっている。
「最初から揺らす構想ではなかったんです。でも、デザイン画を描きながらアイデアを煮詰めていくなかで、底にカーブをつけるのはおもしろいな、と」
もともと、椅子が大好きな野沢さん。約30年前に初めて買ったイームズの椅子が、そういえばロッキングチェアだったと当時を振り返る。現在、自身が営む歯科医院の待合室にも同じものが置かれ、来院する子どもたちから大人気だという。
「実用面を考えてなるべく軽量化するために、当初のデザインから真鍮の量をかなり減らしました。結果、現在の下部のみを支えるような形になったのですが、見た目のアクセントになっているだけでなく、ボトムのコバを保護するという役割も担っています」
この真鍮、かなり年月を経たような雰囲気を漂わせているが、「塩化アンモニウムに浸けて、緑青色に。そこにさらに塩をまぶして、ザラザラとした質感を出しています。真鍮棒同士は、初挑戦のロウ着で接合しました」と、野沢さん。「ロウ」とは、低い温度で溶ける素材の合金のこと。これを接着剤代わりに溶かして、本体の金属同士を接合するのが「ロウ着」、あるいは「ロウ付け」といわれる技法だ。
さて、肝心のレザーはというと、本体には猪のジビエレザーを採用している。
「ワイルドな雰囲気の革なので、ピカピカした金属との相性は良くない。この革をメインの素材に選んだからこそ、真鍮を緑青加工するアイデアも浮かんできたんです」
取っ手部分には、蛇革を使用。「猪(亥)」と「蛇(巳)」は、十二支を円状に並べた時に対角線に位置する「向かい干支」になっている。それぞれに無いものを補い合い、幸運をもたらすといわれる縁起のいい組み合わせだ。
「実は今年、初孫が生まれたんです。干支が巳年なので、いい記念にもなるかなって」
そして、このバッグの個性を決定づけているのが、アシンメトリーなデザイン。
「左右非対称のデザインにしようというのは、かなり初期の段階から決めていました。ジッパーは、その曲線を下まで滑り落ちるようにつけたことで大きく開くことができ、使い勝手がいい。開け閉めの際につまむタブを、別づけではなく本体と一体成型にした点もこだわりです」
タブの下には小さなループがついているが、これはショルダーバッグとしても使えるようにと検討を重ねた名残りだという。
「実際に肩ひもを取りつけて何度か使ってみたんですが、真鍮の強度が足りなくて曲がってしまい、諦めました。改善の余地は、まだまだいろいろありますね」
もうひとつの受賞作品は、スクエアのフォルムが折り目正しい「Doc Tote【TIME】」。
「Doc Toteは、『ドキュメントトート』の略。A4サイズの書類が、封筒ごと入るサイズになっています」
この作品を作ろうと思ったきっかけは、ほかならぬ自身のニーズだったと野沢さん。
「ここ数年、本業の歯科医師として、会議に出席する機会が増えたんです。最近はペーパーレス化っていわれていますけど、やっぱりまだ紙の書類が多い。それをぴったり収めて、きれいな状態で持ち運べるトートバッグが欲しかったんです」
一般的なビジネスバッグは、横長のデザインがほとんど。しかし、「封筒本来の方向は縦向きですよね。これを、その向きのまま収納したくって」と、こだわりを語る。
革は、栃木レザーの牛革。上部は素材をそのまま生かし、ボトムを染色することでツートンカラーに。緑青加工の真鍮フレームとなじむよう、染色部分には錆のような質感が演出されている。
「レザーの魅力は、やはり経年で変化していく表情。一方、すでに薬品加工をした金属は、ここからあまり変化はしないですし、染色をした部分も完成時点の状態をほぼキープします。時間の経過とともに変化するパーツとしないパーツ、その対比のおもしろさを表現してみました。作品名に【TIME】とつけたのは、そのためです」
印象的なハの字状に取りつけられた取っ手は、何度も検討した結果、たどりついた配置だという。
「デザインも、製法も、本当に毎回試行錯誤です。本当にちゃんと形になるかは、最後までまったく確信がもてません(笑)」
野沢さんのすごいところは、毎回出品するたびに、新たな手法に挑戦している点だ。グランプリを受賞した2022年の「チイサナフデバコ」は、ヌメ革を木型で立体成型。23年は、積層させた革を削ることで亡き愛犬の姿をつくりあげ、中にオルゴールを仕込むという斬新な作品で、フリー部門フューチャーデザイン賞を獲得した。
「専門分野がないからこそ、何にでもチャレンジできるのは、自分の強みかなって思っています。縫製もすべて独学ですし、いまだにミシンすらありませんから、全部手縫い。でも、失敗しながらも作品が形になっていく、その過程が好きなんですよね」
来年の出品作品についても、すでにアイデアは浮かんでいると話す。これだけ受賞歴を重ねていても、レザーアワードへの情熱はとどまることを知らない。
「だって、毎年本当に楽しみにしていますから。何回受賞させていただいても、また挑戦したい。レザーアワードは、僕のものづくりの原動力です」
文=中村真紀
写真=江藤海彦
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