アパレル業界で働く
プロによる本気の遊び
刺し子を施したユニークな
レザージャケット

ウェア&グッズ部門 ベストプロダクト賞 パンチングレザー 刺し子ライダース 有限会社 オベリスク 石橋 善彦 さんの画像 ウェア&グッズ部門 ベストプロダクト賞 パンチングレザー 刺し子ライダース 有限会社 オベリスク 石橋 善彦 さんの画像

2023年度 グランプリ

ウェア&グッズ部門
ベストプロダクト賞

パンチングレザー
刺し子ライダース

有限会社 オベリスク

石橋 善彦 さん

パンチングレザーと刺し子を組み合わせた唯一無二のレザージャケットで、見事グランプリを受賞した石橋善彦さん。受賞作についてはもちろん、時間とコストにとらわれず創作を続けてきた彼のものづくりに対する姿勢について、じっくりと話を聞いた。
石橋 善彦さんの作品 パンチングレザー 刺し子ライダースの設計図と素材の画像

妻からの頼まれごとが
創作のきっかけに

レザーウェアとしては2009年以来14年ぶり、レザージャケットとしては初となるグランプリ受賞を果たした石橋さん。「2016年に別のレザージャケットで部門賞をいただいたことはありますが、今回はグランプリということで喜びもひとしおでした」と、満面の笑みを見せる。

受賞作品は、パンチングレザーに刺し子を組み合わせたライダースジャケットだ。刺し子とは、布地に刺し縫いをして糸によってさまざまな模様を描く手法のこと。革に応用する着想を得たきっかけは、家族からのある依頼だった。

「妻から『デニムに穴が開いたので塞いでほしい』と頼まれたときに、修繕の方法として、以前から興味のあった刺し子についていろいろと調べたんです。その過程で、刺し子は革との相性もいいのではないか、ということに気づきました」

石橋 善彦さんの作業風景画像

刺し子とパンチングレザーの
幸運なる邂逅

刺し縫いをするためには革に穴を開ける必要がある。そこで思いついたのが、アパレルブランドの仕事で普段から扱っているパンチングレザーの使用だ。等間隔の穴が開いている革ゆえ、刺し縫いをするにはうってつけだった。

「すでに誰かがやっている手法だろうと思ったのですが、お客さんをはじめみなさん『見たことがない』というので、とても意外でした。おそらく、ハンドクラフトの手法である刺し子とスポーティなパンチングレザーは方向性が真逆なので、誰も組み合わせたことがなかったのかもしれません」

オリジナリティにあふれるコンビネーションを考案した石橋さん。自身が普段使いでBMXに乗っていることから動きやすさを重視し、ベースとなるパンチングレザーにはソフトなヌバックを使用。脇の部分にマチを追加して腕を上げやすくするなどの工夫を凝らした。

石橋 善彦さんの作品 パンチングレザー 刺し子ライダースの画像

ファスナーは予期せぬ偶然が
生んだ副産物

もうひとつ注目したいディティールが、袖のヒジ下および上腕の後ろ側に取り付けたファスナーだ。刺し子の糸が切れた際には、ファスナーから手を入れて修理することができる。じつはこのファスナー、予期せぬエラーから思いついたアイデアを採用している。

「刺し縫いで革をぎゅっと引き締め続けた結果、革全体がおおよそ4~6パーセント縮んでしまったんです。その縮みを補うためにファスナーを取り付けたのですが、結果的に刺し子の修理をしやすい持続可能な仕様になりました」

ファスナーこそ怪我の功名であったものの、石橋さんの創作の底流には「安いものを何回も買い替えるより、ある程度高価でも長く使えるもの、できれば一生着られるものをつくりたい」という思いがある。修理を前提とした受賞作にも同様のマインドが反映されているといえるだろう。

石橋 善彦さんの作品 パンチングレザー 刺し子ライダースの画像

自分が着たいものを自由につくる

石橋さんは、レザーウェアをメインで扱うアパレルブランド「オベリスク」のプロダクトマネジャー。多忙な仕事の合間を縫い、ものづくりを続けてきた。

「僕が制作するものは、基本的に自分が着たいものです。レザーアワードに関しては毎年応募してきたわけではなく、良いものができた年は応募するという感じですね。受賞できない年も応募作を着て楽しんでいるので無理がないし、自分でもサステナブルだと思います(笑)」

淡泊で欲のないスタンスを長年キープしつつ、ついに射止めたグランプリの座。今回も受賞に向けて特別な対策を練ったわけではない。だが、石橋さんは作品を応募した後、「ジャパンレザーアワード 2023」のホームページを見てあることに気づいた。

「審査員の方たちから期待されている要素が、今回の作品にことごとく当てはまったんです。直感的に何かしら受賞できるかも、と思いました」

石橋 善彦さんの作品 パンチングレザー 刺し子ライダースの画像

時間とコストにとらわれない
ものづくり

入賞を目指すのではなく、シンプルにかっこいい作品をつくりたいという思いが先に立つ。クリエイターとしての嗅覚は、時代のニーズをナチュラルに作品へと落とし込む。
自分のためのものづくりだから、けっして妥協はしない。時間とコストにとらわれず、最高だと思えるものをつくることをモットーとしている。

「いつも思っているのは、プロが本気で遊んだらすごいものができるんだぞ、ということです。自分のやっていることは、この言葉に尽きますね」

すでに受賞作のバージョン2を構想しているという石橋さん。湧き出る創作意欲のおもむくままに、これからも「プロによる本気の遊び」を極めるつもりだ。

2016年度 ファッション雑貨部門 部門賞
https://award.jlia.or.jp/2016/winner/index.html

文=吉田 勉
写真=加藤 史人

作品ページ
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受賞者一覧

石橋 善彦 さん

2023年度 グランプリ

ウェア&グッズ部門 ベストプロダクト賞

有限会社 オベリスク

石橋 善彦 さん

アパレル業界で働く
プロによる本気の遊び
刺し子を施したユニークな
レザージャケット

西野 裕二 さん

フットウェア部門
ベストプロダクト賞

西野靴店

西野 裕二 さん

無骨なソールと
独自染色のアッパー
樹木に“擬態”する、
唯一無二の一足

平田 史明 さん

バッグ部門 ベストプロダクト賞

&6

平田 史明 さん

革の特性を
生かすことで生まれた
曲線美と機能美を
両立するバッグ

北崎 厚志 さん

ウェア&グッズ部門 ベストプロダクト賞

chelsea leather art work

北崎 厚志 さん

純国産、ジビエ鹿革で
仕立てる革半纏
技巧と発想で伝える
ニッポンの粋

青木 健治 さん

フットウエア部門 フューチャーデザイン賞

Takivi Leathers

青木 健治 さん

プリミティブに
還ることで
革靴としての
新しい価値観を生み出す

紀井 長 さん

フットウェア部門 フューチャーデザイン賞

個人

紀井 長 さん

持続可能素材としての
革の魅力を再発見
自宅のストックから
生まれた再生スニーカー

多田 智美 さん

バッグ部門 フューチャーデザイン賞

OFFcoast

多田 智美 さん

自分のルーツを
探る旅から発想
人生のアップダウンを
表現した意欲作

野沢 浩道 さん

フリー部門 フューチャーデザイン賞

個人

野沢 浩道 さん

重ねて削るという発想
既存概念を覆す
革へのアプローチ

宮代 結菜 さん

学生部門 最優秀賞

上田安子服飾専門学校

宮代 結菜 さん

異素材の組み合わせで
表現したかったのは
人間の内側にある本質

工藤 サトミ さん

アーティスティックデザイン賞

ramkere

工藤 サトミ さん

中学生の描いた
デザインをもとに制作
子どもたちの自己肯定感を
高める靴づくりとは

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