プリミティブに還ることで
革靴としての
新しい価値観を生み出す

フットウェア部門 フューチャーデザイン賞 cocoon Takivi Leathers 青木 健治 さんの画像

フットウェア部門
フューチャーデザイン賞

cocoon

Takivi Leathers

青木 健治 さん

シンプルな佇まいながら、そこにはまったく異なるジャンルが共存――。アメリカ先住民の文化にルーツをもつモカシンに、本格的な革靴ソール製法を組み合わせてしまったのが、青木健治さんの作品だ。制作のきっかけから、細部に宿るこだわりまで詳しく伺う。
青木 健治さんの作品 cocoonの画像

靴づくりを知らない、
妻のひと言から

モカシンとは、アメリカ先住民が履いていたスリッポンタイプの履きものが原型。本来は革1枚で足を包み込むような構造だが、現在はアッパーをU字型に縫い合わせるタイプが主流だ。カジュアルシューズとして人気が高く、ソールは薄めに仕立てられている場合が多い。

「モカシンに、安定感のある革靴のソールをくっつけてみたらいいんじゃない?って。妻の何気ないひと言から誕生したのが、今回の作品なんです」
靴づくりを知らないからこその斬新なアイデアゆえに、形にするにはなかなか苦労も伴ったと、青木さんは笑う。

「ソール部分は、アウトソールを出し縫いで取り付けるブラックラピド製法がベース。ウェッジ部分にコルクを組み込むことで、スニーカー並みの軽量化を図りました」

青木 健治さんの作業風景画像

よりやわらかに、
モカシンの原型に近づける

アッパーの構造についても、彼ならではの哲学が隠されている。
「“革の袋で足を包み込む”という古来のモカシンを、どうやったら現代風に再構築できるか、ということを考えていたんです。結果、アッパーを上部と下部に分けてそれぞれを吊り込み、同じ革でつくった紐で編み合わせる製法にたどりつきました」

こうして自身のブランド「Takivi Leathers」の商品として、販売を開始したのが2019年。タンニンなめしの牛革で、ブラック、キャメル、グレーの3色展開だが、いち押しは、今回出品したグレーだという。
「微妙な色合いにすごく惹かれて。この革でぜひ何かつくりたいと思ったのも、制作のきっかけのひとつでした」

青木 健治さんの作品 cocoonの画像

靴修理からキャリアをスタート

財布など、革製品の制作を始めたのは20歳のころ。バイクに乗っていたこともあり、レザー製品には愛着があった。
「しばらくはバックパッカーをしていて、24歳くらいでそろそろ就職しないとまずいかな、と。そのときに見つけたのが、靴修理の会社の募集でした。経験者採用だったんですけど、これまでつくった作品を持って行って見せたら、雇ってもらえたんです」

大手婦人靴メーカーの商品を専門に、修理の仕事を続ける毎日。だがそのうち、直すだけではなく自分の靴をつくってみたい、そう思うようになる。
「会社に在籍しながら、2015年にTakivi Leathersを立ち上げました」

青木 健治さんの作業風景画像

石膏を流し込んで、木型を制作?

だが修理を生業にしていたとはいえ、靴づくりについてはそれまできちんと学んだことがない。当時の制作方法は、極めて独特だ。
「既成品の革靴を買ってきて、中に石膏を流し込んで固めて。それを木型代わりに使いつつ、本体をばらすことで構造を研究していました」

自分としては、それなりの靴を完成させたつもりだった。だが、完成品を持って木型職人のもとを訪れた際に、忌憚なき評価を受けることとなる。
「さすがに基本がなってなさすぎると(笑)。浅草の靴工房に1年間通って、基礎からじっくり学びました」

2017年に、11年間勤めた靴修理の会社を退職。親戚が所有する空き家が静岡の山中にあると聞き、工房を持つにはもってこいだと移住に踏みきった。

青木 健治さんの画像

無理なく、長く、続けること

当初は、自宅の四畳半が制作現場。その後2019年には隣の家も購入し、念願の広々としたアトリエを手に入れた。

「目標は、無理なく長く、ブランドを続けていくことですね」
アワード応募時のコメントに、「効率やコストパフォーマンスと相反するものをつくりたかった」と綴った青木さん。それもあり、靴づくりだけに経済基盤を求めず、いまもあえて別の仕事ももっている。

「ものづくりは、あくまで自分の表現の形。これを生活の糧にしようとすると、いろんな矛盾が生じちゃうと思うんです」
住む場所も、仕事も、自己表現も、何を選びとるかは自分次第。そんな軽やかな生き方の中にこそ、心動かすものづくりスピリットが宿るのだ。

文=中村 真紀
写真=江藤 海彦

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