学生部門
最優秀賞
CORE
上田安子服飾専門学校
「いまって、いろんなところで誹謗中傷が多い世の中じゃないですか。テレビのニュースを見ながら、そんなことを感じていたんです」
現在、上田安子服飾専門学校ファッションクラフトデザイン学科バッグコースの2年生として学ぶ、宮代さんはそう話す。
「私には、他人を傷つけるような発言をする人の心理は理解できない。でも、そんな負の感情は、一体どこから生み出されているんだろう、って疑問に思って。『その人の内側から湧き出しているものなのでは?』と考えたときに、“人間の内側”、つまりは“骨と内臓”が思い浮かんだんです」
感情の根源である、人間の内面。それを、物理的に我々の内部を構成する臓器で表現したのが、この「CORE」という作品なのだ。
背に当たる部分とあばら骨は、それぞれブラックとホワイトのレザーで制作。
「黒は艶のあるレザーを選んで、高級感を演出。白は実際の骨のように、真っ白すぎない、少しグレーがかったものを選びました」
サイドは透明のビニールで仕上げ、より“内面”が見えるよう工夫されている。
注目したいのは、あばら骨の間から見え隠れする、さまざまな臓器に使用した素材だ。
「心臓は、ツイード生地で制作しました。さまざまな色が交差する感じが、感情と直結するイメージの心臓にぴったりだと思って」
赤と紫のレザーで、胃と肝臓を。上部には、イエローベースの紐で食道と気管を表現し、全体に配置した赤いフェザーは毛細血管を表しているという。
「異なる素材を組み合わせることで、人間の複雑さを表現しています」
見た目のインパクトだけでなく、可変性というおもしろさも加味してあるのが、宮代さんならではのアイデア。
「あばら骨には銅線が仕込んであって、自由に曲げることができます。サイドのボタンを外せば、全体を持ち上げることもできるんですよ」
じつはこの作品には、同時期に制作されたシリーズアイテムがもう1点ある。
「受賞作品のほうは、負の感情に注目しましたが、こちらはプラスの感情がテーマ。人と人とのつながりを表現するために、手の骨をバッグの前面にあしらいました」
さらに特徴的なのは、ショルダー部分が背骨を模していること。
「背骨は人間を支える大事なパーツなので、バッグを支える役割をもつショルダー部分に採用しています」
現在はすっかりバッグ制作に夢中の宮代さんだが、最初に興味を持ったのは服だという。
「高校で、ファッションコースに進学しました。スタイリスト志望だったんですが、高校3年生ですごく好きなバッグブランドに出会って。夢中でそのブランドのバッグを集め始めたんです」
高校卒業後は、本格的にバッグ制作を学びたいと考え、地元岐阜を出てひとり暮らしをスタート。大阪・梅田にある、上田安子服飾専門学校に進学した。
「東京の学校も含めて検討したんですが、少人数制で学べるいまの学校を選びました。カリキュラムにイタリア研修が組み込まれているのも魅力で。いよいよ来年2024年の2月に、3週間行ってくる予定です」
海外の技術を間近で見ることで、自分のスキルをさらにレベルアップさせたいのだと宮代さんは続ける。
「今回の受賞作は、どちらかというとコンセプチュアルな作品。でも、今後は技術力でも見せられるようになりたくて。シンプルだけど高級感のある、そんなバッグをつくってみたいです」
バッグの魅力とは? 最後にストレートな質問を投げかけてみた。
「コーディネートを完成させるパワーを持っていると思うんです。服だけを完璧にスタイリングしても、鏡の前に立ったときに、どこか物足りなさを感じるんですよね。そこにひとつバッグを持つだけで、一気に全身が引き締まる。そう感じています」
持つ人のスタイルを演出し、自信を与えられるようなバッグづくり。それこそが、宮代さんが生涯をかけて歩んでいこうと決めた道なのだ。
文=中村 真紀
写真=江藤 海彦