ウェア&グッズ部門
ベストプロダクト賞
十二支 ブローチ
CAI芸術スタジオ 株式会社
大口を開けてどんぐりをくわえるネズミに、シガーを嗜むウサギ。ウェア&グッズ部門ベストプロダクト賞を受賞した
「十二支は、中国でも日本でもポピュラーなテーマ。作品のモチーフにするアーティストも多いですが、どうしたらこれまでにない十二支がつくれるか、挑戦してみたかったんです」
蔡さんは中国・北京出身。大学で美術を学んだのち、日系広告代理店に就職。主にテレビコマーシャルのクリエイティブに携わるなど、仕事は充実していた。
「でも、とにかく毎日忙しくて、疲れてしまって。何か気分転換になるものをと、10年ほど前に趣味でレザークラフトを始めたんです」
流暢な日本語でそう話す。最初は、レザーを仕事にするなんて思ってもいなかったという。しかしインターネット動画などを参考に、独学でみるみる技術を習得。アメリカや日本を訪れては、現地の作家との交流も深めた。
「私の作品づくりの原点のひとつは、『シェリダンスタイル』と呼ばれるアメリカのレザーカービング技術です」
シェリダンとは、アメリカ・ワイオミング州にある町の名前。この地にはカウボーイ文化が根づいており、革の表面に凹凸を刻印することで生まれるカービングを施したレザーが、馬のサドル、ブーツなどに使われている。
さらに、日本の伝統工芸や、その技法を取り入れたレザーの加工技術にも、興味を引かれていた蔡さん。
「当時中国では、まだまだレザークラフトの文化は育っていなかった。でも日本では、ろうけつ染めなど昔ながらの技法をレザークラフトに生かすなど、独創的で高い技術をもつアーティストがたくさんいたんです」
より作品づくりに集中するため、約20年の会社員生活を卒業。その翌年に、妻、息子と共に茨城県つくば市に移住してきた。4年前のことだ。
「つくばはのんびりした場所なので、制作に没頭するにはもってこいです」
いまはオンラインを中心に教室を開いたり、作品の受注販売をしたり。来年3月には、新しい工房を併設したギャラリーも、近隣にオープン予定だという。
「私の作品は、シェリダンスタイルのほか、より立体的な造形のフィギュアスタイル、さらに完全3Dのスカルプチュア。大きく分けて3つのスタイルがあります」
今回の受賞作は、このうちの「フィギュアスタイル」にあたる。樹脂の型に濡らしたヌメ革をかぶせ、乾かして成形。ここに工具で細かい細工を施し、さらに着色して仕上げる、蔡さんオリジナルの技法だ。
「使っているのは、栃木レザーの牛のヌメ革。濡らしたときの伸縮性がばつぐんなので自在に造形ができ、かつ乾いたときに硬さが出るので気に入っています」
蔡さんの動物たちは、デフォルメしたユニークな表情。さらに細かい演出により、独特の存在感を放っている。
「馬はたてがみを片側に流して、風を切っているような颯爽とした雰囲気に。蛇の背景にあしらったのは、魚のうろこ。中国北部の少数民族が実際に使っている材料なんですが、魚のうろこもいってみれば、『革』ですよね」
いま没頭しているのは、「だるま」づくり。顔の部分を、ほかのモチーフに入れ替えた表現を追求している。
「もともと日本の妖怪に興味があって、だるまの顔を妖怪にしてみたり。今度は七福神など神様の顔もいいかな、なんて。いろいろ試してみようと思っています」
一般的な題材を、組み合わせの意外性で表現することが醍醐味だという蔡さん。やわらかな物腰の彼が生み出す個性的な作品、その意外性もまた魅力だ。
文=中村真紀
写真=江藤海彦