1枚の革に命を吹き込む、
驚くべきクラフト技術
強烈な個性で魅了する、
前代未聞の十二支像

ウェア&グッズ部門 ベストプロダクト賞 十二支 ブローチ CAI芸術スタジオ 株式会社 蔡 弘灏 さんの画像

ウェア&グッズ部門
ベストプロダクト賞

十二支 ブローチ

CAI芸術スタジオ 株式会社

蔡 弘灏サイ ホンハオさん

中国・北京から日本に移住して4年。新進気鋭のレザーアーティスト・蔡弘灏サイ ホンハオさんがつくりあげたのは、一見革とは思えない精緻なディテールの十二支。オリジナリティあふれる創作活動の源泉は?そして、日本に来た理由は? 茨城県つくば市の工房を訪ねた。
蔡 弘灏さんの作品 十二支 ブローチの画像

大口を開けてどんぐりをくわえるネズミに、シガーを嗜むウサギ。ウェア&グッズ部門ベストプロダクト賞を受賞した蔡弘灏サイ ホンハオさんの「十二支ブローチ」は、その強烈な個性で見る人をくぎ付けにする。

「十二支は、中国でも日本でもポピュラーなテーマ。作品のモチーフにするアーティストも多いですが、どうしたらこれまでにない十二支がつくれるか、挑戦してみたかったんです」

蔡 弘灏さんの工具の画像

代理店勤め、CM制作で活躍

蔡さんは中国・北京出身。大学で美術を学んだのち、日系広告代理店に就職。主にテレビコマーシャルのクリエイティブに携わるなど、仕事は充実していた。

「でも、とにかく毎日忙しくて、疲れてしまって。何か気分転換になるものをと、10年ほど前に趣味でレザークラフトを始めたんです」

流暢な日本語でそう話す。最初は、レザーを仕事にするなんて思ってもいなかったという。しかしインターネット動画などを参考に、独学でみるみる技術を習得。アメリカや日本を訪れては、現地の作家との交流も深めた。

「私の作品づくりの原点のひとつは、『シェリダンスタイル』と呼ばれるアメリカのレザーカービング技術です」

シェリダンとは、アメリカ・ワイオミング州にある町の名前。この地にはカウボーイ文化が根づいており、革の表面に凹凸を刻印することで生まれるカービングを施したレザーが、馬のサドル、ブーツなどに使われている。

蔡 弘灏さんが作業をしている画像

さらに、日本の伝統工芸や、その技法を取り入れたレザーの加工技術にも、興味を引かれていた蔡さん。

「当時中国では、まだまだレザークラフトの文化は育っていなかった。でも日本では、ろうけつ染めなど昔ながらの技法をレザークラフトに生かすなど、独創的で高い技術をもつアーティストがたくさんいたんです」

より作品づくりに集中するため、約20年の会社員生活を卒業。その翌年に、妻、息子と共に茨城県つくば市に移住してきた。4年前のことだ。

蔡 弘灏さんの技法「フィギュアスタイル」の画像

伝統技術をベースに生み出すオリジナル技法

「つくばはのんびりした場所なので、制作に没頭するにはもってこいです」

いまはオンラインを中心に教室を開いたり、作品の受注販売をしたり。来年3月には、新しい工房を併設したギャラリーも、近隣にオープン予定だという。

「私の作品は、シェリダンスタイルのほか、より立体的な造形のフィギュアスタイル、さらに完全3Dのスカルプチュア。大きく分けて3つのスタイルがあります」

今回の受賞作は、このうちの「フィギュアスタイル」にあたる。樹脂の型に濡らしたヌメ革をかぶせ、乾かして成形。ここに工具で細かい細工を施し、さらに着色して仕上げる、蔡さんオリジナルの技法だ。

蔡 弘灏さんの作品 十二支 ブローチの画像

栃木のヌメでこそ実現する、細やかな造形

「使っているのは、栃木レザーの牛のヌメ革。濡らしたときの伸縮性がばつぐんなので自在に造形ができ、かつ乾いたときに硬さが出るので気に入っています」

蔡さんの動物たちは、デフォルメしたユニークな表情。さらに細かい演出により、独特の存在感を放っている。

「馬はたてがみを片側に流して、風を切っているような颯爽とした雰囲気に。蛇の背景にあしらったのは、魚のうろこ。中国北部の少数民族が実際に使っている材料なんですが、魚のうろこもいってみれば、『革』ですよね」

いま没頭しているのは、「だるま」づくり。顔の部分を、ほかのモチーフに入れ替えた表現を追求している。

「もともと日本の妖怪に興味があって、だるまの顔を妖怪にしてみたり。今度は七福神など神様の顔もいいかな、なんて。いろいろ試してみようと思っています」

一般的な題材を、組み合わせの意外性で表現することが醍醐味だという蔡さん。やわらかな物腰の彼が生み出す個性的な作品、その意外性もまた魅力だ。

文=中村真紀
写真=江藤海彦

作品ページ
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受賞者一覧

益子 実佳 さん

2021年度 グランプリ

フットウェア部門 ベストプロダクト賞

宮城興業 株式会社

益子 実佳 さん

素材も生産も
“メイド・イン・ヤマガタ”
持続可能性に満ちた
ローカルシューズ

猪俣 真 さん

フットウェア部門
フューチャーデザイン賞

個人

猪俣 真 さん

それ自体が副産物であり、
革は立派なエコ素材
想いを込めた
「脱皮するスニーカー」、
その中身とは?

牛島 淳 さん

バッグ部門 フューチャーデザイン賞

個人

牛島 淳 さん

革の可能性を広げるバッグは、
型紙2種類のみ
一流品とも戦える
シンプルな創意工夫

蔡 弘灏 さん

ウェア&グッズ部門 ベストプロダクト賞

CAI芸術スタジオ 株式会社

蔡 弘灏 さん

1枚の革に命を吹き込む、
驚くべきクラフト技術
強烈な個性で魅了する、
前代未聞の十二支像

椎名 賢 さん

審査員長特別賞(持続可能なデザイン)

Ken Shiina Design Laboratory

椎名 賢 さん

一枚の革と一本の紐で、
SDGsを体現
自分の手だけでつくる
バックパック

高張 創太 さん

フリー部門 ベストプロダクト賞

SOTA LEATHER PRODUCTS

高張 創太 さん

経年変化が楽しい、
インテリアに馴染むデザイン
確かな技術力で叶えた、
斬新なアイデア

中山 智介 さん

フリー部門 フューチャーデザイン賞

銀職庵 水主(ぎんしょくあん かこ)

中山 智介 さん

見た目だけではなく
本質を追求
審美性を兼ね備え、
自然に還る安心な抹茶碗

益井 隆之 さん

ウェア&グッズ部門
フューチャーデザイン賞

TROJAN HORSE

益井 隆之 さん

レザージャケットの
固定概念を打ち破る
薄い、軽い、収納できる一着

松村 美咲 さん

バッグ部門 ベストプロダクト賞

有限会社 清川商店

松村 美咲 さん

素材も技術も、
使うことで未来へつなぐ
伝統と創造から
生まれる次代のデザイン

若井田 健太 さん

学生部門 最優秀賞

多摩美術大学

若井田 健太 さん

若者が注目したのは
日本古来の伝統技法
「撓め革」は
究極のサステナブル素材だ

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