バッグ部門
ベストプロダクト賞
Laura
有限会社 清川商店
「作品をつくるときは、私が描いたデザインをベースに、職人と相談しながら形にしてもらいます。今回も、協力してくれた社内の先輩に感謝です」
バッグ部門ベストプロダクト賞を受賞した松村美咲さんは、東京都墨田区の地で1960年から続く鞄メーカー「清川商店」に生まれた。創業者を祖父にもち、自身も鞄づくりを志す。現在は企画デザインに携わりながら、社内の熟練職人の技を習得すべく奮闘中だ。
「40代、50代でも若手といわれる世界。32歳の私が職人を名乗るなんて、まだまだ恐れ多いです」
受賞作「Laura(ラウラ)」は、3年前にはすでに構想があったという。
「きっかけは、近くにある竹問屋さんなんです。小さいころからよく知っている方なんですが、それまではあくまで“近所のおじさん”(笑)。でも、取り扱っている竹について話を聞いてみたら、すごくおもしろくって」
竹は、自生しているものを伐採するのではなく、きちんと栽培、品質管理したものが出荷される。そういった生産者の方たちがいるからこそ、素材としての竹が流通するということを、松村さんは初めて認識した。
「話しているなかで、今回の作品の持ち手に使った、土佐の『黒竹』のことを知って。天然でこの美しい黒色、これを使って鞄をつくりたいと思ったんです」
黒竹の和の雰囲気に合わせたのは、かちっとした印象のガラスレザー。オリジナルでイメージに合ったものを製作したという真鍮金具のマットな質感と相まって、クラシックながらどこか新しさを感じるデザインだ。
「革はあらかじめパーツごとに裁断、完成形をイメージしながら縫製前に染色しました。立体にしてからだと、どうしても思い通りに染めきれないところがあるので」
さらにこだわりは、マチの仕上げだという。
「いつも惚れ惚れするんですが、フォーマルバッグのマチって、本当に美しい。でもきれいに仕上げるにはかなりの技術が必要ですし、革自体の魅力を生かすも殺すも職人次第。熟練の技がマチに詰まっているんです」
店を継げと言われたことは一度もないという松村さん。
「でもいま思い返すと、『鞄を勉強するならこんな学校がある』とか、『経営者になるなら、専門学校だけじゃなくて四年制大学でも学んだほうがいい』とか、会話の随所に父の思惑がにじみ出ていたと思います(笑)」
実際大学で学びながら、並行して夜間に1年半鞄づくりの学校へ。卒業後は「ほかの会社も経験しておくべきだと思って」、3年間アパレルメーカーに勤務。そこで貯めたお金で、1年間イタリアでも鞄づくりを学んだ。
「そのときの先生が口酸っぱく言っていたのは、『あなたがつくるのは、作品ではなくて商品だ』いうこと。美しいことはもちろんですが、アート性を求めるのではなく、実用としての使い勝手、耐久性を常に考えています」
松村さんが何度も繰り返したのは、「使う人がいなくなったら、材料も技術も消えてしまう」ということ。
「竹の生産者さんも、竹を使う人がいなくなったら続けられない。革もそうです。だからこそ、うちのブランドでは、すべての商品に日本の革を使っています」
より自分たちのイメージに近い材料を求め、ときにオリジナルをオーダーすることもある。そうして材料も技術も、使い続けなければ守っていけないのだ。
「最近は、若いお客さんも多いですね。逆におばあちゃま世代は『懐かしいデザインね』って気に入ってくださったり。純粋に商品としての質の高さを認めてくれるお客さまが、年代を問わず増えてきているように思います」
祖父から受け継ぐフォーマルバッグの技術と、松村さんならではの新しいアイデアの化学反応。ショップ店頭を覗くたびに、新しい何かに出会えそうな予感がする。
文=中村真紀
写真=江藤海彦