素材も技術も、
使うことで未来へつなぐ
伝統と創造から生まれる
次代のデザイン

バッグ部門 ベストプロダクト賞 Laura 有限会社 清川商店 松村 美咲 さんの画像

バッグ部門
ベストプロダクト賞

Laura

有限会社 清川商店

松村 美咲 さん

昨年レザーアワード初応募にして、見事バッグ部門ベストプロダクト賞を受賞した松村美咲さん。なんと、本年度2021年も同じ賞を受賞。その裏側には、職人へのリスペクトと、ものづくりを伝承する者としての強い想いがあった。
松村 美咲さんが描いたデザイン

「作品をつくるときは、私が描いたデザインをベースに、職人と相談しながら形にしてもらいます。今回も、協力してくれた社内の先輩に感謝です」

バッグ部門ベストプロダクト賞を受賞した松村美咲さんは、東京都墨田区の地で1960年から続く鞄メーカー「清川商店」に生まれた。創業者を祖父にもち、自身も鞄づくりを志す。現在は企画デザインに携わりながら、社内の熟練職人の技を習得すべく奮闘中だ。

「40代、50代でも若手といわれる世界。32歳の私が職人を名乗るなんて、まだまだ恐れ多いです」

松村 美咲さんの画像

きっかけは「近所のおじさん」

受賞作「Laura(ラウラ)」は、3年前にはすでに構想があったという。

「きっかけは、近くにある竹問屋さんなんです。小さいころからよく知っている方なんですが、それまではあくまで“近所のおじさん”(笑)。でも、取り扱っている竹について話を聞いてみたら、すごくおもしろくって」

竹は、自生しているものを伐採するのではなく、きちんと栽培、品質管理したものが出荷される。そういった生産者の方たちがいるからこそ、素材としての竹が流通するということを、松村さんは初めて認識した。

「話しているなかで、今回の作品の持ち手に使った、土佐の『黒竹』のことを知って。天然でこの美しい黒色、これを使って鞄をつくりたいと思ったんです」

フォーマルバッグの画像

黒竹の和の雰囲気に合わせたのは、かちっとした印象のガラスレザー。オリジナルでイメージに合ったものを製作したという真鍮金具のマットな質感と相まって、クラシックながらどこか新しさを感じるデザインだ。

「革はあらかじめパーツごとに裁断、完成形をイメージしながら縫製前に染色しました。立体にしてからだと、どうしても思い通りに染めきれないところがあるので」

さらにこだわりは、マチの仕上げだという。

「いつも惚れ惚れするんですが、フォーマルバッグのマチって、本当に美しい。でもきれいに仕上げるにはかなりの技術が必要ですし、革自体の魅力を生かすも殺すも職人次第。熟練の技がマチに詰まっているんです」

松村 美咲さんの作品 Lauraの画像

「作品」ではなく、「商品」をつくる

店を継げと言われたことは一度もないという松村さん。

「でもいま思い返すと、『鞄を勉強するならこんな学校がある』とか、『経営者になるなら、専門学校だけじゃなくて四年制大学でも学んだほうがいい』とか、会話の随所に父の思惑がにじみ出ていたと思います(笑)」

実際大学で学びながら、並行して夜間に1年半鞄づくりの学校へ。卒業後は「ほかの会社も経験しておくべきだと思って」、3年間アパレルメーカーに勤務。そこで貯めたお金で、1年間イタリアでも鞄づくりを学んだ。

「そのときの先生が口酸っぱく言っていたのは、『あなたがつくるのは、作品ではなくて商品だ』いうこと。美しいことはもちろんですが、アート性を求めるのではなく、実用としての使い勝手、耐久性を常に考えています」

松村 美咲さんの作業風景
松村 美咲さんの作品 Lauraの画像

使うことで、守る・つながる

松村さんが何度も繰り返したのは、「使う人がいなくなったら、材料も技術も消えてしまう」ということ。

「竹の生産者さんも、竹を使う人がいなくなったら続けられない。革もそうです。だからこそ、うちのブランドでは、すべての商品に日本の革を使っています」

より自分たちのイメージに近い材料を求め、ときにオリジナルをオーダーすることもある。そうして材料も技術も、使い続けなければ守っていけないのだ。

「最近は、若いお客さんも多いですね。逆におばあちゃま世代は『懐かしいデザインね』って気に入ってくださったり。純粋に商品としての質の高さを認めてくれるお客さまが、年代を問わず増えてきているように思います」

祖父から受け継ぐフォーマルバッグの技術と、松村さんならではの新しいアイデアの化学反応。ショップ店頭を覗くたびに、新しい何かに出会えそうな予感がする。

2020年度 バッグ部門ベストプロダクト賞「AUDREY」
https://award.jlia.or.jp/2020/list/detail.php-no=J20A-6037.html

文=中村真紀
写真=江藤海彦

作品ページ
shop

受賞者一覧

益子 実佳 さん

2021年度 グランプリ

フットウェア部門 ベストプロダクト賞

宮城興業 株式会社

益子 実佳 さん

素材も生産も
“メイド・イン・ヤマガタ”
持続可能性に満ちた
ローカルシューズ

猪俣 真 さん

フットウェア部門
フューチャーデザイン賞

個人

猪俣 真 さん

それ自体が副産物であり、
革は立派なエコ素材
想いを込めた
「脱皮するスニーカー」、
その中身とは?

牛島 淳 さん

バッグ部門 フューチャーデザイン賞

個人

牛島 淳 さん

革の可能性を広げるバッグは、
型紙2種類のみ
一流品とも戦える
シンプルな創意工夫

蔡 弘灏 さん

ウェア&グッズ部門 ベストプロダクト賞

CAI芸術スタジオ 株式会社

蔡 弘灏 さん

1枚の革に命を吹き込む、
驚くべきクラフト技術
強烈な個性で魅了する、
前代未聞の十二支像

椎名 賢 さん

審査員長特別賞(持続可能なデザイン)

Ken Shiina Design Laboratory

椎名 賢 さん

一枚の革と一本の紐で、
SDGsを体現
自分の手だけでつくる
バックパック

高張 創太 さん

フリー部門 ベストプロダクト賞

SOTA LEATHER PRODUCTS

高張 創太 さん

経年変化が楽しい、
インテリアに馴染むデザイン
確かな技術力で叶えた、
斬新なアイデア

中山 智介 さん

フリー部門 フューチャーデザイン賞

銀職庵 水主(ぎんしょくあん かこ)

中山 智介 さん

見た目だけではなく
本質を追求
審美性を兼ね備え、
自然に還る安心な抹茶碗

益井 隆之 さん

ウェア&グッズ部門
フューチャーデザイン賞

TROJAN HORSE

益井 隆之 さん

レザージャケットの
固定概念を打ち破る
薄い、軽い、収納できる一着

松村 美咲 さん

バッグ部門 ベストプロダクト賞

有限会社 清川商店

松村 美咲 さん

素材も技術も、
使うことで未来へつなぐ
伝統と創造から
生まれる次代のデザイン

若井田 健太 さん

学生部門 最優秀賞

多摩美術大学

若井田 健太 さん

若者が注目したのは
日本古来の伝統技法
「撓め革」は
究極のサステナブル素材だ

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