フリー部門
ベストプロダクト賞
バランスボール
SOTA LEATHER PRODUCTS
「運動不足解消のために買ったんですが、ゴムの大きな球体はどうしてもインテリアになじまなくて。ならば革で包んでしまえ! というのがアイデアです」
フリー部門ベストプロダクト賞を受賞した高張創太さんの、「バランスボール」。ゴム製の既製品をそのまますっぽり、大きなレザーのボールの中に収めてしまった。
「バランスボールを買ってしばらくは、僕も妻もたまに乗っていたんです。でもそのうち、使わないときは空気を抜いて片づけるか、となってきて。そうなったら、もう二度と引っ張り出さないじゃないですか(笑)。レザーなら、出しっ放しでも部屋に馴染むし、使っていくうちに艶が出るなどの経年変化も楽しめると思ったんです」
今回の作品の前に、クラシックなデザインのサッカーボールをつくったという高張さん。それをベースに、直径65㎝になるようパーツのサイズを拡大した。
「単純に大きくするとは言っても、その分ぐっと重くなる。ミシン縫いのときも、指が脱臼するかと思いましたし、ときには左足も使って支えながら縫っていました」
さらには、最終の仕上げ工程で壁が立ちはだかる。
「すべて裏返しで縫い合わせて、最後にこの口の部分からひっくり返すんですけど、どうしてもうまく出てくれなくて。せっかく縫った場所を1回ほどいてどうにか裏返すことができました」
使用したのは、植物タンニンとクロムのコンビネーションなめしの牛革。ボールの美しい曲線を実現するために、硬すぎず、やわらかすぎずという塩梅にこだわった。
「日本の革の魅力は、仕上げのていねいさと、なんといっても品質が安定している点。安心して使えます」
北海道・恵庭市出身の高張さん。網走にある東京農業大学の生物産業学部で学んだ後、地元の牧場で働いていた。レザー製品づくりをするきっかけは、ちょうどこの頃、祖父から譲り受けたカメラだったという。
「ストラップもカメラケースもついていなくて。革でつくれたらかっこいいな、っていうのが始まりです」
技術を学べる場所を求めてカルチャーセンターに通うも、そこはレザーカービングなど、どちらかというと装飾技術寄りのクラスだった。
「これじゃあいつまでたっても、カメラケースつくれるようにならないな、と(笑)。専門学校で学ぶことも考えましたが、思い切ってイタリアに行くことにしたんです」
向かったのは、フィレンツェ。伝統的なものづくりが学べる専門学校で、鞄や靴を基礎からじっくりと学んだ。
「いま思えば、夢のような10か月でした」
帰国した高張さんは、ものづくりでの就職を目指して上京。そこから鞄メーカーや、レザー製品のサンプルメーカーなど、三社ほどを渡り歩いた。高齢の職人も多い業界。その人が辞めるタイミングで、会社が解散されてしまうという経験も。それに加えて、昨年からのパンデミックを受け、受注製造の仕事はぐっと減ってしまった。
「ならば、もう自分のブランドを始めようかなと。昨年『SOTA LEATHER PRODUCTS』を立ち上げました」
あえて商品のジャンルを絞らずに、鞄はもちろん、財布、文具からインテリアまで、幅広い製作活動を展開。ホームページでのオーダー受付のほか、全国のクラフトマーケットにもたびたび出展し、そこで直接注文をもらうことも増えているという。
「会社員時代は、お客さんと直接話す機会はまずありませんでした。だから、いま生の声を聞かせてもらえるのはありがたいし、何より本当に楽しいです」
高張さんの本当の挑戦は、始まったばかりだ。
文=中村真紀
写真=江藤海彦