ウェア&グッズ部門
フューチャーデザイン賞
TROJAN HORSE
元々は、建設会社で活躍していた益井隆之さん。「やっぱり好きなことがしたい」と2014年に脱サラし、自身のブランド『TROJAN HORSE』を立ち上げた。中学時代からずっと好きだったという、レザージャケットの専門店だ。
「僕がレザージャケットにはまったきっかけは、中学生の頃に観たマイケル・ジャクソンの『Bad』のプロモーションビデオ。見た瞬間に「イケてる!」と思って、似たようなライダース風のジャケットを買いに走りました。でも改めて見てみると、マイケルの着ているジャケットは、どう見てもレザーじゃない(笑)。その時から今まで、ずっと変わらずレザージャケットに夢中です」
少年は大人になり、レザージャケット界に新たな風を吹かせたいと考えるようになった。
「今の時代、レザージャケットは『おしゃれな人が着るハードルの高いアイテム』という位置づけになってしまっていると思う。でも僕は、もっと日常的に着られるものとして、レザージャケットを身近に感じてほしいんです」
そんな思いを具現化したのが、今回受賞した「
「レザージャケットは硬くて重いでしょう?と、多くの方に言われます。ポジティブにとらえれば、それは丈夫で長持ちする、という革の特性につながるんですけどね」
そう言いながら、小さく折りたたまれた作品をポーチから取り出した。まるでアウトドアウエアのような収納方法だが、広げればそれはまぎれもなく光沢あるレザージャケット。手に取ると、驚くほど軽い。
「この作品のアイデアは、姫路のタンナー・オールマイティの『革の折り紙』に出合ったことがきっかけで思いつきました。オールマイティさんでは極薄の革を製造していて、この革でつくられた折り鶴を見た時には本当に驚いた。それならば、ジャケットも同じように折りたためるほど薄い革でつくることができるのではないか、と考えたんです」
日頃から、革を見るとまず「ジャケットに使えないか?」と考えるようになっている、という益井さん。そんな彼だからこそひらめいた、ユニークなアイデアだ。もちろん、実際に着用するための服に仕上げるには耐久性も重要な課題。何度も試行錯誤を重ね、ベストな厚さを見つけ出したという。使用した革は、ハリのあるホースハイド。革厚を調整することにより、ジャケットの重さを約600gまで軽量化することに成功した。収納時は、縦約30cm、横約17cm、厚さ約7cmというポーチサイズになり、鞄に入れての持ち運びも容易にできる。
「もともとレザージャケットは、それぞれ用途に適した形になっている。例えばライダースは、バイクを運転する時の前傾姿勢に合わせてデザインされているんですよ。でもそのままでは普段着としては使いづらい。日常の動きに適した着心地を重視して設計しました」
襟がないシンプルなデザインで、フロントファスナーは上下どちらからでも開閉可能なダブルジップ仕様。試着してみると、腕まわりにもゆとりがあり、心地よい着心地。そしてやはり、なにより軽い。
「最近のファッションは、どちらかというとビッグサイズがトレンド。レザージャケットでは限界がありますが、少しゆとりのあるデザインにしています。襟を付けていないので、アウターとしてだけでなくインナーとして使えるのも特徴です」
これなら秋春はアウターに、冬ならインナーとして、3シーズンにわたり活躍する。
「時代に合った身近なレザージャケットを」という益井さんの想いが込められた、唯一無二のジャケット。固定概念にとらわれない発想があったからこそ、新しい可能性を秘めた一着を生み出すことに成功したのだ。
文=土井真由美(CLIP)
写真=鈴木康浩