偶然出会った
個性的な「リム」から想起
デザインと確かな機能性が
同居するトートバッグ

バッグ部門 ベストプロダクト賞 “リム” トート Wish Born 中野 義夫 さんの画像

バッグ部門
ベストプロダクト賞

“リム” トート

Wish Born

中野 義夫 さん

20年以上にわたり、鞄や革小物をつくり続けてきた中野義夫さん。確かな技術に基づくものづくりの上に花開くのは、自由で独創的なひらめきだ。受賞作のアイデアは、偶然出会った個性的な車から得たという。その制作ストーリー、そしてこれまでの軌跡に迫る。
中野 義夫さんの作業風景画像

憧れのハーレーダビッドソン

「自分は、四人兄弟の末っ子で。時代の影響もあったと思うんですけど、長男と次男がスーパーカー好き、三男と僕がバイク好きだったんです」

姫路の北に位置する、兵庫県・神河町に生まれた中野義夫さん。高校を卒業して働き始めると、すぐに大型免許を取得。ハーレーダビッドソンを購入したという。

「そうしたら、財布とか、腰に下げるメディスンバッグとか、ハーレーにぶら下げるサドルバッグとか、そういう革製品も欲しくなっちゃったんですよね。でも、高くて買えなくて。ツーリング仲間の先輩でレザークラフトをやっている人がいたので、つくってもらおうと思ってお願いしたんです。そうしたら、『おまえ、器用そうだから自分でやってみろ』って言われてしまって。それがすべての始まりです」

中野 義夫さんの画像

リーマンショックをきっかけに、
革で独立

先輩から1年ほど基礎を教わったのち、姫路市内の工房で本格的に学び始めた中野さん。その頃にはすでに自らミシンや革すき機を購入し、自宅でも制作可能な環境に。工房で習った工程の続きを、独学で進めてしまっていたというから驚く。

「姫路市が革製品の職人育成のために運営している『革工房BAIMO』っていう施設があって。20代の中頃からは、そこで作品の販売も始めました」

好きなものをつくり、売れたらその対価が収入になるというシステム。平日は鉄工所で働きながら余暇の時間で作品を制作、毎週日曜日にBAIMOのスタッフを務めていたという。

「その頃ちょうど結婚したんですけど、時代はまさにリーマンショック。鉄工所の仕事が激減したのをきかっけに、会社を辞めました」
現在は自身のブランド、「Wish Born」を運営している。

中野 義夫さんの作品 “リム” トートの画像

おばあちゃんっ子の、
タイヤのリム

レザーの道を志したきっかけが、ハーレーダビッドソンだった中野さん。今回の受賞作品「“リム” トート」は、印象的なタイヤの「リム」と出会ったことで生まれたと話す。

「子どもを連れて車で出かけた時、お茶屋さんに寄ったんです。そうしたらそこに、ゴリゴリリーゼントの兄ちゃんがいて。帰りに駐車場に行ってみたら、もう絶対その子のやわ~っていう、ひときわ目立つ車が(笑)。案の定、彼が乗り込んだんですけど、その助手席にいたのが……、おばあちゃんやったんです。優しい子やん!と思って、ふとその車のタイヤを見ると、リムの部分がびょんと飛び出ていた」

これにひらめきを得た中野さん。鞄における「捨てまち」を、このリムのようにわざと立ち上げるというデザインを思いついたのだ。

中野 義夫さんの作品 “リム” トートの画像

デザイン、使い勝手、経年変化

「捨てまちというのは、この鞄の側面のように、通常でも外側に立ち上がった形状になっています。それを本作では、底の片面のみを通常よりも大きくせり出すようにデザインし、そこにブランドロゴを刻印しました」

持ち手が長く、男性でも無理なく肩から掛けられるため、ショルダーベルトを別付けする必要はなし。左右どちらの肩に掛けた場合も、スマホなどの小物がスムーズに出し入れできるよう、両側の見返し部分にポケットが設けられている。機能性の面でも、綿密に考え抜かれているのだ。

「革は、硬すぎず経年変化も楽しめる、クロムとタンニンのコンビなめしのステア。普段からお世話になっているタンナー、近所の大谷皮革さんにお願いしました。色も『こんな感じ』ってなんとなくのニュアンスを伝えれば、いつもいい感じに仕上げてくれるので助かってます」

生後数か月後に去勢して肥育した雄牛の革

中野 義夫さんの制作風景画像

90歳を超えても、
ミシンを踏み続ける人生を

40歳を迎えた中野さん。これまでの人生のちょうど半分ほどを、レザークラフトと共に過ごしてきたことになる。ものづくりのどんな部分に、一番の魅力を感じているのだろうか。
「なんでしょう。新しいアイデアを考えている時が好きですかね。こんなんあったらええなぁ、どうやったらたらできるやろう……っていう。今日の晩ごはんはなんだろな、みたいな時間が一番楽しい、あれと同じです(笑)」

一方で、90歳までものづくりを続けていたい、というストイックな夢も語る。
「前にどこかで、広島の傘職人のおじいちゃんの映像を見て。その方がまさに90歳を超えてもなおミシンを踏み続けていたんです。そんなふうになれたら本望。自分がやらな、って何かがないと、人間だめになっちゃいますからね」

2013年度 プロフェッショナル メンズバッグ部門 部門賞
https://award-jlia.thats.ne.jp/2013/vote/item_detail.php-no=J13P-1815.html

文=中村 真紀
写真=鈴木 康浩

作品ページ

受賞者一覧

野沢 浩道 さん

2022年度 グランプリ

フリー部門 ベストプロダクト賞

個人

野沢 浩道 さん

シンプルでミニマム
だから想像力をかきたてる
デジタル全盛時代に
フィジカルの大切さを問う筆箱

宮内 崇 さん

フットウェア部門
ベストプロダクト賞

アトリエ路地の家

宮内 崇 さん

神戸牛の
“生きた証”に最敬礼!
太陽の力で
美しい色の変化を表現した一足

中野 義夫 さん

バッグ部門 ベストプロダクト賞

Wish Born

中野 義夫 さん

偶然出会った
個性的な「リム」から想起
デザインと確かな機能性が
同居するトートバッグ

矢内 徹 さん

ウェア&グッズ部門
ベストプロダクト賞

株式会社 𠮷田

矢内 徹 さん

お札入れ、小銭入れ
パスケース、ヘアピンを活用した
斬新な組み立て型ウォレット

外林 洋和 さん

フットウェア部門
フューチャーデザイン賞

LIGHTBULB

外林 洋和 さん

最新デジタル技術は
対面採寸の壁を超える
伝統と革新で実現する
新時代ビスポーク

河本 静香 さん

バッグ部門 フューチャーデザイン賞

sunao

河本 静香 さん

多種多様な革が
醸す魅力を伝える
端切れ革を使った
手編みバッグ

蔡 弘灏 さん

フリー部門 フューチャーデザイン賞

CAI芸術スタジオ 株式会社

蔡 弘灏 さん

伝統技法を生かし
床革を味わい尽くす
レザーの魔術師が目指した
シンプルの極み

井藤 憲一郎 さん

フリー部門 フューチャーデザイン賞

個人

井藤 憲一郎 さん

簡略化した工程で
誰でもつくれるように
端材を使った環境配慮型の
テディベア

大塲 朝希 さん

学生部門 最優秀賞

国際ファッション専門職大学

大塲 朝希 さん

天然のキズが
気になるなら……
逆転の発想から誕生した
猫の爪とぎ

安藤 真弓 さん

審査員長特別賞(持続可能なデザイン)

株式会社ティックワールド

安藤 真弓 さん

性別と年齢の
垣根を飛び越える
害獣の革から
生まれたシューズ

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