フットウェア部門
フューチャーデザイン賞
「ビスポークシューズver 2.0
~伝統技法×最新技術で挑む
世界市場~」
LIGHTBULB
大阪で大学を卒業後、システムエンジニアとして働いていた外林洋和さん。幼い頃からものづくりが好きで、システム構築もひとつのものづくりと捉えて仕事に選んだ。しかし各案件の規模が大きかったこともあり、プログラミングから納品、顧客対応まで一連の工程に携わることはなかったという。
「小さいスケールでもいいから、受注から制作、納品、アフターケアまで、お客さまともっと長くお付き合いできる仕事がしたいと考えました」
そこで注目したのが、革靴だった。
「自分自身もサラリーマンだったので、毎日履いていたんですが、どうも合うものがなくて。調べていくうちに、ビスポークという製法があることを知ったんです」
SEの職を辞して製靴学校で学んだ後、3年ほど大阪の修理工房に勤務。その後、東京のビスポーク工房で底付けの仕事を始めた。
しかし、ほどなくしてパンデミックが世界を襲う。対面で採寸、カウンセリングをおこないながら制作するビスポーク市場は危機的状況となった。
「以前は海外からのお客さんも多かったんですが、その売り上げはいっきにゼロに。リモートでビスポークをやるしかないかな……と考え始めたときに出会ったのが、義肢装具士の野口達也さんでした」
野口さんも、もともとは靴職人。道具として優れた靴をつくるためには、もっと足のことを知るべきだと考え、義肢装具士の資格を取得したという人物だ。
「靴づくりって、一つひとつの工程がものすごく深くて、職人さんたちは技術を極め抜いている。一方、足のことを質問されても答えられない人が多くて。そこに疑問を感じたんです」
野口さんはそう話す。
外林さんと野口さん、ふたりの出会いは昨年2021年。SNS上でのことだった。
「僕がちょうど、スマホカメラを利用して足の採寸をするシステムの開発に携わっていて。そのときに外林さんの投稿を見たんです。靴職人さんでも、足のことまでしっかり考えながらものづくりをしているところに共感。連絡をとって、会うことになりました」
すぐに意気投合かと思いきや、外林さんのほうは半信半疑の部分もあったという。
「そのときはまだ、ちょっと古い職人的な考えもあったというか。やっぱり直接採寸しないとビスポークは難しいかも、とも思っていた。でも実際に野口さんから話を聞いて、システムを見せてもらって。これなら新しいアプローチができるかも、そう感じたんです」
こうしてシューメイキングユニット、「LIGHTBULB(ライトバルブ)」が誕生。主に野口さんが木型を削り、外林さんが実際の靴づくりを担当する。基本的に採寸に基づくビスポークだが、実際に会うことが難しければ、採寸システム「iD-FOOT」を使って計測。加えて、足踏みをする動画、足についてのアンケート回答を送付してもらうことで、遠隔地からもオーダーを可能にしたのだ。
「良くも悪くも、靴づくりの世界には長いこと“当たり前”として受け継がれてきた古い慣習がたくさんある。でも伝統を尊重しつつも、新しい技術や素材、製法を組み合わせることで、これまでとは違った可能性が生まれるはず。LIGHTBULBでは、そんな提案をしていきたいんです」
今回の受賞作タイトル「ビスポークシューズver 2.0」は、そんな野口さんの言葉をそのままに表現している。
「一見、クラシックなパンチドキャップトゥ※のドレスシューズ。でも素材には、『ジビエレザー』というちょっと珍しい革を使用しています。これは国内で捕獲され、肉は食用に処理された動物の皮をなめしたもの。そのコンセプトに共感して選びました。今回はあえて、テクスチャーのあるイノシシをチョイス。色も赤味がかったブラウンで特徴づけています」
ここにも「伝統×革新」というテーマが込められていると、外林さんは続ける。
「今後は、僕たちふたりだけで完結するのではなく、いろんな職人さんを巻き込んでいきたいと思っていて。そのコミュニティのプラットフォームとしてLIGHTBULBがあればいいなと。それぞれが得意な技術を生かしていいものをつくり、きちんとしたお代をいただく。そんな活動を通して、日本の靴業界を盛り上げていくことが、いま一番の野望ですね」
トゥに一文字の穴飾りを施した紳士靴のデザイン
文=中村 真紀
写真=三木 匡宏