バッグ部門
フューチャーデザイン賞
千色革籠(せんいろかわかご)
sunao
「私の創作の原点は、15年前に足を運んだ『東京レザーフェア』です。展示されている革の種類の多さ、その加工技術に驚いたことを、昨日のことのように覚えています。こんなにも多彩な革があるのに、その存在が世の中には伝わっていない――。そこで、多種多様な革が醸し出す魅力を作品に落とし込み、表現してみたいという思いが芽生えました」
そう語るのは、バッグ作家の河本静香さん。時を同じくして自身のブランド「sunao」を立ち上げ、クリエイターとしての活動をスタート。皮革工芸の伝統的な技法や素材にモダンなセンスを加味し、独自の作風を確立している。
これまでさまざまなプロダクトを手掛けてきた河本さんだが、とくに思い入れのあるのが編み込みの技法を採用したバッグだ。受賞作の「千色革籠」は、その延長線上にある。
「作品名は、千種類の動物の毛皮を縫い合わせたマントが作中に登場するグリム童話『千枚皮』に由来します。このバッグも、さまざまな革の面白さや魅力を引き出したいという思いで制作しました」
素材としては、色も仕上げ方も異なるバラエティー豊かな革が使われている。これらはすべて、河本さんが革製品を制作する過程で生まれた端切れ革だ。
「今作のコンセプトは、端革の有効活用。余った革をテープ状に裁断して継ぎ合わせ、ひとつのバッグに仕上げています。少ない分量の革で制作できるうえに、手編みで高価な機械を必要としないため、非常にSDGs的な作品であるといえます」
この製法は、使い古した布を細く割いて使う伝統織物「裂織(さきおり)」を連想させる。河本さんの芸術や工芸に対する造詣の深さが、温故知新のものづくりにつながったといえそうだ。
河本さんの革に対する思いが詰め込まれた今作の制作は、コロナ禍におけるすきま時間を使って進められた。その端緒となったのは、革の編み込みに適した芯材を見つけたことだった。
「型崩れのしない芯材と一緒に革を編み込んでいるので、腰折れしにくく使いやすいバッグに仕上がっています。編み込みタイプのバッグは経年で型崩れしやすいものなのですが、この製法であれば長く使っていただけます」
また、あざやかな配色も人の目を引き付ける。
「製造する工程で一番時間をかけているのは配色です。一つひとつの革が生きるように、絵を描くように編み込んでいます。事前におおよそのパターンを決めてから編み始めるのですが、配色のバランスが好ましくなかったら一度ほどき、再び編み直します。編み直しができるのもこの作品のよいところですね」
東京レザーフェアで見て感激した「多彩な革がずらりと並ぶ光景」を具現化したともいえる今作。受賞を果たした河本さんに、次なる目標はあるのだろうか。
「革を編む技法を用いたものづくりはずっと続けていきたいです。それとは別に、これまでやったことのない革の染色を少しずつやっていこうかなと企んでいます。染め方は何かしらの伝統技法になりそうです」
最後に、「ジャパンレザーアワード」への思いを聞いた。
「『ジャパンレザーアワード』は、日本で最大規模の皮革製品コンテスト。革を使ってものづくりをする人のあこがれであり続けていると思います。今後はクリエイターにとどまらず、革製品を使うのが好きな人たちにももっともっと広がってほしいですね」
河本さんのつくった「千色革籠」が、きっとその役割を担ってくれるはずだ。
文=吉田 勉
写真=加藤 史人