学生部門
最優秀賞
牛さんの爪サロン
国際ファッション専門職大学
現在、国際ファッション専門職大学に通う4年生である大塲朝希さん。今回の作品づくりのきっかけは、3年生の時に参加していたゼミのプロジェクトだった。
「2021年に、レザーの卸売専門商社である富田興業株式会社さんと私が所属していた平井秀樹教授のゼミが共同で立ち上げた『レッザレジリエンスプロジェクト』。これは、流通時に一番下にランク付けされてしまう『D級』レザーを有効活用し、皮革業界における資源ロス問題に取り組むためのプロジェクトです」
動物が生きていた時についてしまったキズや、虫刺されや吹き出ものの痕。それらは最終製品の見た目を損なうものとされ、いずれ廃棄されてしまうものがほとんどだという。
「そうしたD級レザーの活用法として、これまでもキズや汚れを模様に見立ててデザインするなどの試みがあったことは知っていて。何か別の活用方法がないだろうかって、考えていたんです。そのときにふと、うちで飼っている猫のことが思い浮かんで……」
革製品が大好きだという、愛猫・ユキちゃん。レザーのソファはユキちゃんによってボロボロに割かれ、その無残な姿をカバーでどうにか隠している状況だった。
「あれ、っていうことは、猫はレザーをキズつけるのが好きなのかな?って。だったら、ちょっと発想を転換して、キズものレザーを、さらにキズをつけるための『爪とぎ』に仕上げてしまえばいいんじゃないかって、思いつたんです」
大塲さんが国際ファッション専門職大学ファッションビジネス学科で学んできたのは、アパレル業界におけるビジネス的アプローチ。いかに独創的な作品を制作するかというよりも、ブランドの運営や、市場ニーズに合わせた商品開発などを専門とする。
「今回の作品づくりにあたっても、まずペット業界の市場調査をおこないました。結果、革を使ったペット用おもちゃは先行品があったんですが、猫の爪とぎは見当たらなかった。これはいける!と、本格的に制作をスタートしました」
完成した作品を見ると、細かくカットされた革の断面を見せるように並べられたユニークなスタイル。しかし、ここにたどりつくまでには紆余曲折があったと話す。
「最初は革を面で使って、そこに爪をとぎたくなるような、カッティングやパンチング加工を施したサンプルをつくりました。でも、うちの猫で試しても全然反応を示さず……。そんな時に、富田興業の方がアイデアをくれたんです。革の端っこを生かしたらどうか、って」
試作品には、革の古い見本帳に使用されていた小さな短冊状の革を使用した。これを縦にして木の箱の中に並べ込むと、断面の色合いも楽しい、斬新な爪とぎが完成した。
「動物が接するものなので、本番の作品で使った革は、すべて植物タンニンなめし。極力ナチュラルな原料を使った革を採用しました」
ボロボロになったらレザー部分だけを取り外し、新しいものに取り換えることが可能。色を替えることで、インテリアとしても楽しめる。木箱の蓋はD級レザーで化粧を施し、革のひも、レザーステッカーを貼ることで、贈答品にも最適な仕様とした。
「この世はものであふれているけれど、そんな中でも他と差別化された、みんなが『こんなの欲しかった!』って言ってくれるものをつくりたい。そのアイデアを考える作業が、一番楽しいんです」
就職先は、化粧品メーカーに決まっているという。
「アパレルブランドとコラボしての、商品開発もしている会社なんです。1年間インターンシップして仕事を見させてもらってきたんですけど、そういうアプローチの仕方もおもしろいなって。それに小さな会社なので、なんでも自分でやらないといけない。すべては自分次第っていうのも、やりがいがありそうだと感じました」
自由な発想と、綿密な市場調査能力。一見相反するような両面を持ち合わせた彼女が、今後どんな新しいアイデアを生み出してくのか、今から楽しみでならない。
文=中村 真紀
写真=加藤 史人