2022年 受賞作品

ジャパン レザー アワード 2022 グランプリ

チイサナフデバコ

フリー部門
ベストプロダクト賞

野沢 浩道(栃木県)

個人

アイデアを書き綴るだけではなくデッサンにも使える鉛筆は、頭の中を具象化するツールとしてベストアイテム。加えて「削る」ルーティンは気分を安らげ精神集中に向いてます。スマホ依存傾向な現代人の脳にとって鉛筆で「書く」所作は、より意義深くなっていくでしょう。今作、消しゴム付鉛筆の為の筆箱を作品にしました。短くなって空いたスペース分だけ〈思考〉で脳を使った目安に。愛着が深まるよう手触り・心地にも拘りました。

【持続可能なデザイン】
可能な限り材料と手間を省く方法で世界最小筆箱を目指し作成。木型はホームセンターで購入した桧棒をヤスリのみで成形、シンプルな革絞りの方法を考案し施工しました(添付カード参照)。Ni-Tiワイヤーのヒンジと小型隠しマグネットで肥大しないよう工夫、飲みかけ珈琲(お気に入りのスペシャリティコーヒー!)でヌメ革染色し、〈極細目紙ヤスリ<-染色<-研磨〉を繰り返し、“木・石に通ずる自然”様の質感に仕上げています。

<審査員長 総評>
レザーアワードというと、どうしても既存の製品の進化や質の向上に視点が行きがちだが、もっと大切なことは、その提案が、どれだけ人々の生活やモノの見方を変えるか、その可能性があるかではないだろうか。無論それは大変難しいことなのだが、この作品はそれを見事に乗り越え、「こんなの欲しかった」、と言わせる強さを持っている。
一本100円足らずの鉛筆の価値が、この作品によって100倍になると言っても過言ではない。鉛筆が短くなるとできるスペースは、「思考を働かせた標」、とする発想も今の時代にマッチする。モノとコト、二つのデザインアプローチが見事である。

各部門・各賞

InTi(インティ)

フットウェア部門
ベストプロダクト賞

宮内 崇(広島県)

アトリエ路地の家

“InTi”は、太陽光による日焼けで柄を表現した神戸牛スニーカーです。
テーマは「生命と太陽」
「生命」は、ヒールマークに番号を刻印していますが、これは検索することが可能な牛の個体識別番号です。今回使用した実際の神戸牛です。
私はこの番号を「1つの命があったことの証明」と捉え、敢えて刻印をしました。
「太陽」は、革の特徴である「経年変化」を利用し日焼けによる迷彩柄を表現しました。3つの相違するパターンを使用することにより濃淡を表現、最終段階で日焼けしにくいコーティングをしました。
一つの生命が宿ってこの靴ができている感謝の気持ち、太陽の力と恵みを感じられる作品になればという想いで作成しました。

【持続可能なデザイン】
革の迷彩柄ですが、太陽光のみの日焼けによる表現です。
染料等は一切使わず、使用したものは「太陽光」と「時間」です。
太陽光発電の発想を転用してみました。
革は神戸牛を使用しました。神戸牛の皮の多くは食用に出来ず廃棄しているそうですが、今回姫路のタンナーにて「革」へと生まれ変わることが出来ました。鞣しは植物タンニン100%で、環境に配慮しています。
ソールはオパンケ製法で張替え可能な構造です。

<審査員長 総評>
太陽光による日焼け(時間)を利用したタンニンなめしの迷彩柄は、これまでにない革のデザインを引き出していて新鮮な印象。加えて染料で染めた製品にはないなんとも言えない優しさがあり、愛着が湧いてくる。
ほぼ廃棄されてきた食用の神戸牛皮を使用し、社会的、環境的視点も考慮した仕組みづくりのデザインも達成されており、ある意味これからの日本の皮革プロダクトの教科書のような作品として、審査員全員の意見が一致した。

“リム” トート

バッグ部門
ベストプロダクト賞

中野 義夫(兵庫県)

Wish Born

バッグのステマチを、自動車の車輪を構成する部品の一つである”リム”に見立てて男女問わずビジネス、カジュアルで使用できるトートバッグを製作しました。
ステマチは大体細長いパーツですが、”リム”トートのステマチは台形のデザインを組み、刻印を押すことで、バッグ自体に重厚感、迫力が得られました。
ハンドル長さが男性でも肩掛けできる長さなのでショルダー紐は無く、肩掛けで使用したときにスマホ等の小物の出し入れが行い易いよう見返し部分に小さなポケットを付けました。
右肩、左肩どちらでスマホ等の小物が収納できるようポケットは二つ付いてます。

<審査員長 総評>
作者の考案した、マチ部を“リム”構造にした造形は、ちょっとした発想の転換かもしれないが、トートバッグの新しいデザインを引き出し、とても美しい仕上がり。本来トートバッグは“持ちはこぶ”ことが主のため、どうしても構造上ボストンバッグのような安定感がないが、この鞄はすっきりしたフォルムにもかかわらず、安定感のあるトートになっている。トートの動的な面とビジネスバッグの静的な面がミックスされた秀逸な製品として評価された。

カスタマイズウォレット

ウェア&グッズ部門
ベストプロダクト賞

矢内 徹(東京都)

株式会社 吉田

革素材の上質さを残した仕上げをしているカーフを使用しています。
薄くしても銀面にハリがあり、床面を綺麗に処理できるので生地などは使用していません。
メインはカードとお札が入れられるシンプルなデザインに。
中心にスリーブを入れることによって付属のパスケースやコインケースを取り外しできるようにしました。
留め具はあえてどこにでも手に入るヘアピンを使っています。 ウォレットは毎日持ち歩く物で使い勝手が人それぞれ違います。
休日や場所によっても変わるものかもしれません。
一つで持っても、別々に持っても、自分の使いやすいようにカスタマイズできることで、楽しみながら使ってもらうことを考がえています。

<審査員長 総評>
スマホで全てを決済できる世の中で、財布のデザインは行き場を失っている。実際に持たない若者も多い。ただ、スマホにはない道具の魅力、使い勝手が財布にはある。今後はこれまでの様な決まった型から解放され、別次元で進化していくのではないかと思う。作者はこうした難しい市場を十分熟知した上で、このカスタマイズウォレットをデザインしている。上質で無駄のないカーフを使い、究極とも言えるヘアピンの留め具、人それぞれ、その時その時を見事に表現、進行形の新しい財布に仕上げている。

ビスポークシューズver 2.0
~伝統技法×最新技術で挑む世界市場~

フットウェア部門
フューチャーデザイン賞

外林 洋和(千葉県)

LIGHTBULB

世界市場への国産ビスポーク靴の輸出

足は十人十色でビスポークとは足を採寸、確認し適切な靴型を基に最終的に靴を納める工程を指します

[これまで]
  • 直接採寸のため国内外の人の移動が必須
  • 高価格ゆえ顧客(主に海外)が限定される
  • コロナ禍で1と2が相まって業界が危機的状況
[これから]
  • 義肢装具士と靴職人で足を中心にしたプロが連携し、IT・3D技術で遠隔地でも高いレベルの履き心地と作りの靴を提供できる
  • 高価格でも需要があれば世界中どこにでもサービスを届けられる
  • 国内外からの仕事を国内の職人に適正価格でお願いし、全世界からオーダーのとれる輸出産業を目指す
【持続可能なデザイン】
LIGHTBULBの取り組み
  • 適正価格で販売する
  • 個々人に合わせた靴を必要量作る
  • 環境に配慮した素材も使用する
  • 足を軸にした他業界と横連携し総合的に顧客の足と靴をサポートする
  • 足と靴型セミナーを開催し産業の発展を進める
  • 消費者向けイベントを開催し靴や足への理解を促す
  • 遠隔採寸による場所に捕われない受注と働き方を実現する
  • 技術のデジタル化を行い再現性を高める

<審査員長 総評>
オーダーメイドシューズといえば高級路線がお決まりだが、今後は高齢者や外反母趾などの足に悩みを抱える人など、社会的視座のオーダーメイドシューズが求められる。日本のしなやかな職人技術をもっと多くの弱者のために広められるチャンスだが、問題は価格。10万台の価格になっては成立しない。それを解決する仕組みが、この提案にはある。職人不足、コロナ禍、デジタル時代、という変化の時をプラスととらえ、世界中の人々へ、国産の上質なシューズを適正価格で送ることを目指した今後が楽しみなプロジェクトである。

千色革籠

バッグ部門
フューチャーデザイン賞

河本 静香(高知県)

sunao

「千色革籠(せんいろかわかご)」は様々な色や質感の国産革を編み込んだ籠バッグです。歴史ある国産革の加工技術の豊かさ、革素材のもつ多彩な魅力をかたちにしました。
芯材を一緒に編み込んであるため、編み目が均質に整うとともに、経年で型崩れしにくい独自の製法です。
イントレチャートや石畳編み等の従来の皮革工芸の編み方と比較して、必要な革の分量が少ないため、材料コストを抑え、なおかつ軽量に仕上げることができます。
厚物ミシンや漉き機等の、特殊で高価な機械を使わずに製作することができるため、新たな革のハンドメイド技法としての展開も可能です。革製の籠バッグは季節を問わず、一年を通して楽しむことができます。

【持続可能なデザイン】
このバッグには、私が革製品を製作した際に生まれた、さまざまな端切れ革が使われています。
天然素材である革は不定形のため、製作過程でどうしても端切れが生まれてしまいますが、小さな革もテープ状に裁断し継ぎ合わせることで、新たな創作の素材となります。
日本の伝統織物である「裂織」のように、さまざまな色や質感の革が奏でるハーモニーは唯一無二。
サステイナブルな温故知新のものづくりです。

<審査員長 総評>
イントレチャート製法は重厚で織物感はないが、この製品はまさに裂織や編組工芸のような軽快感があり、時代にマッチした美しさがある。不定形で小さな単位で残る端材革をテープ状にすることで、今までにあるようでなかった素材が生まれ、新しいバッグのデザインがつながった。コスト面だけでなく高価な機械を使わない製法面もサスティナブルな思考で評価できる。
端切れを使うため、一つとして同じ製品がないことも「希少性」を好むこれからの消費者には魅力と映るだろう。

混沌

フリー部門
フューチャーデザイン賞

蔡 弘灏(茨城県)

CAI芸術スタジオ 株式会社

日々革を素材として作品作りをしている私にとって、革は多彩な表情をもち、その美しさに魅了されています。ヒトの価値観で革の良し悪しを判断していますが、もともと革に優劣などないことは当たり前のことでしょう。この作品ではすべて廃棄された床革を使用して、その独特なテクスチャを普遍的な形を持つ焼き物のように表現したいと考えました。そのために陶器工芸の輪積み法を参考にしました。また、生漆を使うことによって、さらに革の彩に深みを持たせようと考えました。自然由来の素材だからこそ時の流れによる変化が、さらに面白みを刻んでくれるだろうと期待しています。

【持続可能なデザイン】
この作品は、廃棄される床革のみを使用して、床革の特独なテクスチャを焼き物のように表現しており、革の経年変化の美しさも楽しめます。また、自然が作り出したタンニン革と生漆という素材を使用する事で、空間環境にやさしく、地球環境の維持に貢献する作品になっています。

<審査員長 総評>
機能的な製品をつくることでは、伝わらないことがある。その大きさも手伝い、生きていた証を感じるこの作品は、何より皮革材料そのものの魅力を伝えている。作者の「革は多彩な表情をもち、その美しさに魅了されています。ヒトの価値観で革の良し悪しを判断していますが、もともと革に優劣などない〜」という言葉は重く時流を掴んでいる。
革の大きな甕は、物の保存という役目を持つ焼き物の強い存在感こそないが、不確かな時代には何かピッタリする不完全な美が感じられ、動物愛護など様々な問題に揺れ動く現代人の心が凝縮されているように見えてくる。

ハザイ×クマ

フリー部門
フューチャーデザイン賞

井藤 憲一郎(福井県)

個人

元々余った革を何か再利用して何か形にしたいという思いが強く、ランドセルのリメイクの依頼や趣味なども重なり、思いついたのがクマのぬいぐるみでした。
今回も端材を利用し制作しました。
細かいパーツの数も多いので、端材も一気に消費可能なイメージでした。
針と糸は使わず縫製なしで、裁断して革と革を嵌め込んで組合せる方法で制作工程を簡素化しました。
制作中は有機溶剤、接着剤等も一切使用せず、液体は水のみ使用しました。
まだ型紙も試作段階ですが、いずれワークショップ等で小さなお子さんでも作れるようなレベルの物にしたいと考えております。

【持続可能なデザイン】
私がこの仕事をしていて常々感じてきた事、それは革の端材問題でした。端材で何か作っても微妙な大きさで残る事もあるので、それを無理なくパーツ取りできるぬいぐるみは私の心を救ってくれました。
地球上の大切な資源を少しでも無駄にしたくなかったので、誰でも簡単に作れる様な方法を採用させて頂きました。

<審査員長 総評>
最初は新しい市場向けのこだわりテディベアかと勘違いしたが、作者の思いはもっと深いものだった。
サスティナブルな世の中のために、端材の活用かつ針と糸は使わず縫製しない誰でも作れる簡単な方法を採用、モノでありながら状況をかえるプロダクトと言える。その狙い通り「小さな子供でも作れるクマのぬいぐるみ」は、親子のコミュニケーションツールでもあり、市販のテディベアとは全く違う価値を持つ。結果ではなくプロセス重視のデザイン提案が逆に既視感のない魅力的なクマのデザインにもつながっている。

牛さんの爪サロン

学生部門
最優秀賞

大塲 朝希(東京都)

国際ファッション専門職大学

「傷を活かす?隠す?、いえ、さらに傷をつけます」
レザーの中にはどうしても傷や生き物であるゆえに跡がある所謂D級のレザーが存在し、このレザーは製品にすることができず工場に眠り続けているか破棄するという現状の問題があります。その問題を解決すべく傷を隠すか、傷を活かした製品をつくるか考えてきましたが、あえて傷があるなら傷をつけてもいい用途で考えてみるという発想に至りました。発想の発端は猫が家の革ソファーをボロボロにするところからで、この習性を利用して猫の爪研ぎをレザーで作れないかと考えました。こうして誕生したのがこれまでになかったおしゃれなレザーでできた猫の爪とぎ「牛さんの爪サロン」です。

【持続可能なデザイン】
この作品で使用されているレザーは傷や跡があることによって製品化が難しいといわれている所謂D級レザーを使用します。革は食の副産物であり、生き物の皮から革をつくる限りそういった革を避けることは難しいです。これまでそういった革は工場に眠り続けるか、破棄となっていましたがこの作品ではそんなD級レザーを活用していきます。使用されている材料すべて天然のものであるため地球にも猫にも優しい爪とぎとなっております。

<審査員長 総評>
縫製など意図的な加工はなし、素材のみの「デザインしないデザイン」が選ばれた。
桐箱の部分は既製品感があり残念であったが、傷がついたレザーが廃棄されている現状に対し、学生らしい視点で問題提起した作品で好感が持てる。箱に敷き詰められた革の断面は均一のようで一枚一枚違う表情があり惹きつけられる。猫の爪研ぎだけでなく、人間も恩恵を受けたい魅力的な質感、今後の展開が楽しみである。

「ロス」から生まれた
「レス」シューズ

審査員長特別賞
(持続可能なデザイン)

安藤 真弓(佐賀県)

株式会社 ティックワールド

サイズが大きくて困ってる女性の方に、紳士靴をお勧めしても嫌がられます。足の小さな男性に婦人靴をお勧めしても嫌がられることが多く、例え履き心地は気に入って頂いても「紳士用だから」「女モノだから」という枠に囚われて「サイズがない」と嘆かれているお客様のお声を聴いてきました。同じように「若い人用のお店だから」「年配者用のブランドだから」と先入観で決められる方も多い。カジュアルで快適なシューズに「男女」も「年齢」も関係なく、とにかく「履き心地」重視で選んで欲しい、という思いで作りました。そして使用する革は害獣からなめした鹿革。「ロス」から生まれた軽くてソフトな履き心地を感じて頂きたい。

【持続可能なデザイン】
害獣として駆除されそのまま廃棄されてきた鹿革を生かそうとしている専門タンナーさんとの出逢いで実情を初めて知り、「もったいない。何か作れないか」と考え、生まれたシューズが「レス」シューズでした。「役に立たない=ロス」とされている「鹿革」を「男女」「年齢」などの差別を生まないシューズとして、シンプルでベーシックで、時代が移り変わっても古くならないモノを考えました。

<審査員長 総評>
まさにless is moreを実現したこのシューズは、時代にあった究極のミニマムデザインが実践されている。かつスタートはlossからという資源の無駄をなくす提案が、作品の厚みとなり、物語を深いものにしている。靴のジェンダー問題やサイズ問題を半ば開き直ったかのように逆に味方につけた “やんわり”した独特の造形は、キレイやカワイイという文脈ではなく、優しいデザインという言葉がピッタリあてはまり、時代の風を感じる作品である。

特選

フットウェア部門 ベストプロダクト賞 J22A-6698 渡邉 千秋(大阪府) 株式会社 仙入

渡邉 千秋(大阪府)

株式会社 仙入

バッグ部門 ベストプロダクト賞 J22A-6545 井戸田 和之(愛知県) 株式会社 村瀬鞄行

井戸田 和之(愛知県)

株式会社 村瀬鞄行

バッグ部門 ベストプロダクト賞 J22A-6687 大熊 啓一(東京都) AZUMAYA

大熊 啓一(東京都)

AZUMAYA

バッグ部門 ベストプロダクト賞 J22A-6723 古田 光(愛知県) 個人

古田 光(愛知県)

個人

フリー部門 ベストプロダクト賞 J22A-6715 佐藤 真世(愛知県) 個人

佐藤 真世(愛知県)

個人

バッグ部門 フューチャーデザイン賞 J22A-6647 東条 祐希(神奈川県) 個人

東条 祐希(神奈川県)

個人